第5話 黒桜


「お前の力…戦争を止める為に貸してくれ」


「…良いぞ、おぬしを認めよう…代償は最後の時に…のう?」


あの時の青年はそう言って妾を振るい続けた、妾に根深く、寄生するかのようにあった負の感情も一緒に…






「主よ…憎しみや悲しみは…いずれ癒えるのかのう?」


「…?さぁ…な…力がある限り憎しみも悲しみのも続くのかもしれない。けど、強大な力があれば、一時でも平和を得る事が出来るはずだ、力は悪ではない、どんな物も使いようだ。…生まれた時から悪で支配された思考、感情を持っている奴がいるなら話は別だが…」


「答えになっとらんのう…それともう一つ…妾を振るうのはもうやめた方が良いぞ…?」


「ははっ!心配しなくても大丈夫だ、俺は勇者だぞ?…黒桜…お前はいい奴だよ。妖刀になっちまったのは使った奴の所為だ」


「ふむ…取り敢えず、一番最初の男の骸は粉砕じゃな」


「ははっ!」


あの時あやつも分かっていたはずだ…妾を振るい続ける意味が






「…交渉は成功だ…ありがとう。黒桜…」


「ふん、戦争の終わった世界を見ずに逝くつもりかのう?」


「はは…無理が祟った…かな?」


「だから、言ったじゃろ…妾は普通の刀ではないと…」


「そうだな…確かに普通の刀じゃない…お前が憑いている刀が何本もあっちゃ、世界が終わる」


「…ふざけるのはそこまでじゃ。…どのぐらい持つ?」


「いや、交渉の条件に俺は死ぬ…お前の呪いでは死なないさ…けど、半分は持って行け」


「おぬしは…本当に馬鹿よのう…」


「馬鹿でいいのさ、馬鹿だから戦争を止める事に迷いがなかった。…時間が無い、早く持って行け…それと、もし、もしもだ。俺と同じ血を持った奴が見たら、力になって欲しい」


「子孫を呪えと?」


「なわけないだろ?…お前に最後の贈り物だ、…これからは名刀でも名乗ってみたらどうだ?…じゃあな…」


「…っ!?」


そう言ってあやつは妾の呪いと一緒に、死んでいった…願いを残して、全く…人使いが荒い奴じゃよ。


…安心して眠っておれ、もう見つけたからのう








彼岸花が覆う水面の上、黒桜が目の前でくすりと微笑む


「…ルイン達は無事なのか?」


「ふむ?あぁ…無事じゃぞ、重傷なのは主だけじゃよ」


「そうか…なら、よかった」


ルイン達は大丈夫らしい、それにしても…俺も生きているのか


「言ったじゃろ?主は死なせぬ、と」


「…あれは幻聴ではなかったのか…ところで、主…?」


「うむ、何か不満かのう?」


きょとん?っと、首を傾げながら不思議そうに此方を見つめる黒桜


「いや…まぁ、いいか…」


「うむ、ならば問題ないのう」


嬉しそうに微笑む黒桜、苦笑いしながらそれを眺める


「所で…此処は何処なんだ?」


「此処は妾の心象世界じゃよ、…まぁ、綺麗な所ではないがの」


「…確かに足元はアレだが…その他は綺麗だ」


足元の頭蓋骨が無ければ、水面に反射した彼岸花の紅色、黒いが桜の花びらが漂う空間は幻想的とすら言える


「…くく…そう言ったのは主で二人目じゃよ」


「そうなのか?」


「うむ、そもそも、ここに来れる者はあまりおらぬからのう」


認めた上で運が良くなければ来れぬ、正直こうして話している事に驚いておるのじゃよ。そう言って、黒桜は数歩離れて、刀を差し出してくる


「主よ…おぬしは何故、戦う?何故、傷付く事を選択した?」


「…目の前で誰かが死ぬのは見たくない、ただそれだけだ…」


もう、あんな思いはしたくない…誰かを見捨ててまで、俺は生きたくは無い


「くくっ…似る物なのかのう…」


心底可笑しそうに笑う黒桜、そして


「妾は妖刀黒桜…主が望む者全てを切り伏せよう。しかし、もしも主が狂ってしまったら…首を跳る」


「…狂いはしない、アイツを退けた力、貸してくれ。黒桜


刀に手を伸ばし、ゆっくりと引き抜く…今度は…守る。必ず…!








意識が覚醒する、眩しい光…朝、か?身体は動かさず、視線だけを周囲を確認するように動かせば


「おはよう、身体は動かさない方が良いわよ?」


ベッドの右側で椅子に座っているルインと目が合い、優しく微笑みかけて来る、頭に包帯を巻いているが元気そうだ


「…怪我は大丈夫なのか…?」


「ふふ…ありがと、大丈夫よ。あれから二週間も経ってるから」


「…そんなに寝ていたか」


えぇ…目を覚まさないんじゃないかと…心配したわ、ルインは隣の机に置いてある花瓶の花を取り換えてはよかった…と喜んでいる


「それじゃ、今はまだ安静にね?」


「あぁ…心配を掛けたな…」


そう言って、ルインは部屋出て行った、あれから二週間も経っているのか


「早い、な…」


「あぁ、確かに早いな」


「うお!?」


やぁ!少年、いや、青年か?と言いながら現れたのは多少歪んでいる鎧


「キラーメイル…何処から入って来たんだ?」


「はっはっはっ!俺は神出鬼没だからな!この城のどこにでも現れるぞ!」


そう言って、ガシャガシャと音を立てながら声を上げる


「…何の用なんだ?」


「用?決まってるだろ!ルインのデレる姿を見る為だ!ついでに録画写真を撮る為!盗撮?知らんな!」


「…ニルヴァー、変態が居るんだが、消してくれ」


「まぁぁぁてぇぇぇぇっ!!!!あの冷血残虐非道の貧乳メイド呼ぶんじゃぁぁぁなぃぃぃっ!?」


「了解しました、変態及び異変種の駆除を始めます」


呼ぶとほぼ同タイミングで屋根の屋根の板が外れてニルヴァが現れると、キラーメイルに後ろ回し蹴りを入れる


…脚の動きが見えなかったぞ…!?


「げぶらばっ!?」


「ちっ、浅いですね」


後ろに飛びながら衝撃を逃がし、床を転がるキラーメイル


「あ、今日も白なんだな!」


「ふんっ!」


「あ、それはダメ!?」


鎧の中心を踏み抜く様に足下すニルヴァ、転がって避けるキラーメイル、そして、いつの間にか口元に薬用のおかゆを乗せたスプーンを近づけて来るハンナ


「ハンナさーん!お助けぇ!?」


「死んでください、変態さん」


「身体を激しく動かすのは明日から出お願いします。…熱くないと思いますが?」


「あ、あぁ…」


…病室は混沌に包まれた、今日の魔王城は平和です。


「…混ざるタイミングを逃したわ…」

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