第8話 王都ファーベル 冒険者失踪事件2
「さて、メモの準備が終わったみたいだし…話してもいいかしら?」
「ああ、ごめんごめん。ペンが埋まってて発掘するのに時間が掛かってしまったよ」
腐海の海からペンを救い出したアーロンが誤魔化す様に頭を書きながらルインに向き直る
「全くもう…単刀直入に言うと今の魔王軍だけだと撃破は難しいわね」
「…冒険者を混ぜれば倒せると?」
「そうね…Aランクの冒険者が束で必要ね」
「おいおい…一人で巨人や悪鬼を倒せる人物だぞ?」
「えぇ…奴が使う『創造魔法』が厄介過ぎて…ね」
『創造魔法』と言う言葉を聞くと眉間にしわを寄せるアーロン
「魔法使いの老いぼれ共が目指した究極の魔術…だったか?」
「うん、奴はそれを完成させたと言っていたわ。現に聖歌魔法を瞬時に扱えてたし…」
「そうなると確かにAランクには厳しいな…」
「えぇ…」
すると、アーロンはシオンに顔を向けてじっと見つめる
「彼が…一人で撃退したのかい?そうなると間違いなくSクラスに相当するんだが」
「いや、奴が何かに満足して帰った。と言った方が良いだろう」
そう…あの時は勝てた訳ではない、単純に奴が引いただけで俺は何も出来ずに殺され掛けていたに過ぎない。奴を超えるほどの力、それが無ければ戦いにすらならない
(主、焦ってはならぬ。奴は確かに狙ってくるじゃろう…じゃが、時間が全くない訳ではない)
『…ああ、わかっている』
「…何かに満足して帰った、か…君は何をしたんだ?」
アーロンがペンを回しながら興味深げに聞いて来る、確かに黒桜の話では…
「…奴は絶対障壁と言う障壁を纏っています。それを俺は貫いたらしく、それに満足して帰ったのではないかと…」
「なんだ、ドMか」
一瞬ルインと一緒にこけ掛けたが姿勢を正すことに成功、扉の外でも見張りがこける音が聞こえた
「そんな訳ないでしょ…」
ジト目で睨むルインに笑いながらアーロンが続ける
「いや、もしかしたらシオン君の熱烈な追っかけで斬られた事に満足して、帰っただけかも」
「何そのバラ展開、ニルヴァと少し話を煮詰めようかしら」
「話を混沌に持って行くな、そしてそんな趣味は俺には無い!」
「いやいや、強引に、こう」
アーロンが更に場を混沌にしようとした瞬間、背後の扉が勢い良く開き一冊の本がアーロンの眉間に直撃する
「ぼげらっ!?」
椅子ごと後ろにひっくり返るアーロン。反射的に振り返れば綺麗な投擲後のスタイルを取るルーの姿
「ギルド長、おふざけも程々にお願いします。シオン様が困っています、後ルインも変な事を言わない」
…本が残像を残していた気がするのだが…
「あはは…ごめんごめん」
「頭が砕けたらどうするんだ…死んじゃうよ?」
苦笑いしながら謝るルインと本が刺さったまま起き上がるアーロン
「貴方は少し、ギルド長としての自覚を持ってください。後、それは返して下さいね」
「部下が暴力的だと上司も困ったもんだよ…あ、ごめん。それはやめて、死んじゃう」
ぶつぶつと文句を言うアーロンに10tと書かれた本を取り出すルー、それを見たアーロンは慌てて謝りながら本を返す
「ルーは元Sクラス冒険者よ、王から称号を渡されるぐらいの」
小声で隣のルインが話しかけて来る
成る程…引退してギルドの管理を任されているのか
「全く…それで、その男は何か言ってませんでしたか?」
いつもの調子に戻るとルーが質問する
「…俺を研究対象と言っていた、貫かれた事の無い障壁を初めて破ったらしい」
「…と、なると…君は何をしたんだい?」
眉間にX字の絆創膏を貼ったアーロンが真剣な表情で尋ねる、隣でルインが笑いを堪えるのに後ろを向いているが気にしないでおこう
「何をした…か。すまない、記憶が途切れ途切れでよく分からないんです」
勿論、嘘である。奴に傷を負わせたのは俺ではなく、黒桜なのだから
(前も言ったが妖術の知識が無く障壁が反応しなかったのじゃろう、じゃが、此処でその話をしない選択。分かっておるのう)
『ああ、出来る限り切り札になるカードの存在は知られたくはない』
「そう、ですか…となると此方でも模索するしかないですね」
ふむ、っと考え込むルー、記録をまとめるアーロン
「…創造魔法が扱えかつダメージを無効にする障壁を常に張っているのか…厄介な」
ふぅ…っとため息を吐き出すアーロン
「後、ニルヴァからの報告だと新型の機兵も確認されたわ」
「おいおい、それは本当か?」
アーロンの表情が更に険しくなり、ルーがため息を吐く
「ギルド長、恐らく今の事件はその新型では…?」
「…曰く、親しい人物の姿になり癖や訛りまで真似る。曰く、霧の深い夜、音も無く忍び寄る影。曰く、目にも止まらぬ速さで飛び回る姿」
「被害にあった冒険者の生き残りからの情報です。ですが、そんな事をする機兵は今まで現れませんでした…因みに死亡した冒険者の死体は上がっていません。殺される瞬間は生き残りが目撃されています」
…まるでおとぎ話に出て来るような魔物だ…
「はぁ…取り敢えず、出来ればいい。調査を手伝ってくれないか?もし、解決出来るのなら冒険者を君たちの戦力として派遣しよう」
「…もし、派遣されなくても私は飛び出していきますけどね」
「あのねぇ…まぁ、それもありか」
此方としてはかなり美味しい話ではある、だが…
「今回の事件…やはり帝国絡みなのか…?」
「正直な所、全く足がつかめていない…魔物の仕業か、帝国の機兵の仕業か…死体が無い以上どちらも考えられる」
「…ルイン、俺はかなりの好条件だと思うが…?」
静かに悩むルインに声を掛ける
「そう、ね…でも、私達二人でこれを解決するのはかなり時間がかかるわ…それに…私は正直戦闘におてはお荷物だし…」
しょんぼりと申し訳なさそうに俯くルイン、その肩にそっと手を乗せる
「…バックアップは任せる、それで十分だ」
「シオン…ふふ、うん…その依頼受けるわ」
「ふっ、因みに二人だけで達成しろなんて言ってないよ。ギルドからも調査に派遣している冒険者が居るはずだ。そいつらと合流してから調査を頼む」
やれやれ、と肩をすくめながらアーロンは言う
「掲示板に紙を貼っておけばその内向こうから接触してくるさ、パーティー募集、とかな?」
「…分かったわ。それじゃ、行きましょう」
ルインの言葉にこくりと頷きながら部屋を後にする、何となく後ろを振り返ればルーが嬉しそうに微笑んでいるのが見えた
「さてっと、まずは調査の為に冒険者を集めないと…それも、実力のある人ね」
「取り敢えずは、調査のパーティー募集、と言う事でいいんじゃないか?」
一階ロビークエストボードの前で腕を組みながら、うーん…と悩むルイン
「クラス制限って書いていい…のよね?」
「…制限を書いておかないと危険な場合もあるはずだ、大丈夫じゃないか…?」
「そうよね。えっと…失踪事件調査の…」
ルインがボードに向かって作業をしているの眺めていると隣からフードを深く被った少女が此方見上げて来る
「…(ジー」
「…」
「…(ジー」
「…」
「…(ジー」
「なんだ…?」
無視をしようとしたが目の前まで来られると流石にきつい、仕方なく声を掛ける事に
「貴方も…事件の調査?」
「…君もなのか…?」
「ん…(こくり)」
思はず聞き返すと、少女は頷き、ゆっくりと暖炉のある休憩スペースを指さす。そこには街に入った時に見た事のある黒髪の少年とピンク髪の少女が雑談している
「パーティー…か?」
「(こくり)」
「つまり、一緒に調査をして欲しいと…?いいのか、相談しなくて?」
「強い人、探してる、中々居ない」
「あれ?シオン、その子は?」
作業を終えたルインが戻って来ては少女を見て首を傾げる
「パーティー、募集、事件調査の」
それを聞くとルインは此方を見て来る、静かに頷くと
「じゃ、私達でよかったら組まない?」
「…(こくん)」
少女は頷くとルインの手を引いて歩き出す、恐らく仲間の居る所に案内してくれるのだろう
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