第4話 現れる脅威
「うっ…ぐっ…こほっ…!」
視点が揺れる…身体が動ない…痛みで意識跳びそうになる…
必死に身体を起こそうとするが感覚が麻痺しているのか動かない、床に血を吐きながら何度も動かそうとする…このままじゃ…!
守らなきゃ…シオンが…!
「あ?あー…今蹴り飛ばしたのが魔王様、か。予想以上に雑魚いな」
まぁ、仕方ねぇか…不意打ちで普通の人間なら弾ける威力で蹴り飛ばしたし、けどなぁ…、目の前の男はため息をつきながら落胆した様子でそう呟くとポケットに両手を突っ込む
「で、だ…魔王が逃がそうとしてのはお前か…ほぉ…中々良さそうな雰囲気だな」
此方を実験動物でも見るかのように観察を始める白衣の男
「し、おん…逃げな、さいっ…!」
「はっ、此奴は傑作だ!魔王は女で魔王よりも使えそうな奴が居るとはなぁ…今回は殺せって事だから…仕方ねぇ、勿体ないが死んでもらうぞ?」
耐久値のテストぐらいできるなぁ!!!そう言いながら狂ったように嗤う男、男から距離を取るために脚に力を込める、が
「おっと、逃がさねぇよ?」
詠唱も魔力が高まる気配もなく、唐突に男から衝撃が発せられる
「!?、ぐ…ぁっ…」
ぐらりっと視界が揺れ、背中や腹部に鈍い痛みが広がり、うつ伏せに倒れる。顔を上げれば男から吹き飛ばされルインと同じように壁に叩き付けられていた…不意に"あの時"と同じ異質な視線が俺を貫く、起き上がろと床に右手を付けば見知らぬ刀が落ちていた
真っ黒な鞘に納められた無骨な刀…鞘から抜けば真っ黒な刃が見える…
召喚された理由は分からない…だが、今ここで魔王が…ルインが殺されるのを見てられるか…!
「エアシューターは耐えるか、まぁ…当たり前だよなぁ…次は魔王様の悲鳴でも聞くか?」
白衣の男がルインの方向を向けば右手をかざす。男を中心に12本の巨大な氷の刃が形成されていく
「う、そ…?あの魔法は二人以上の…術者が必要なはず…!」
「ああ…その通りだ。本来聖歌魔法は二人からの術者による詠唱が必須条件、更に長く唱えればそれだけ威力が上がるのが特徴だ、だが…俺は『創造魔法』を蘇らせた、老害共を出し抜いてなぁ!聖歌魔法を一人で行い、威力の調整、詠唱省略もできる…凄いだろ…?」
白衣の男は左手で顔を覆いながら高笑いする、そして、一斉に刃はルインに向かって発射される…!
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
ルインと男の間に飛び込む様に割り込む!迫り来る一本目の氷の刃を薙ぎ払い、二本目を切り上げる、三本目を振り下ろしで砕く、四本目の刃先に切先を合わせ刺突で砕き、五本目を平地で受け止める!そのままの勢いで全ての刃を叩き落し、一気に男に肉薄すれば男の驚く表情が見える
「殺せるとでも思ったか?」
「な…!?」
刀が動かない、見えない壁でもあるかのように男の胸の前で刃先は止まっている
「っ!?くっ!」
「死ね」
再び現れるは四本の氷剣…両腕、両足を貫き、ルインの目の前まで吹き飛ばされる、だが…!
「何だ。まだ立てるのか?」
「はぁ…はぁ…くっ…ぁ…」
ゆっくりと、右腕に刺さる氷剣を抜き、地面に落とす
「シオン…何で…何で逃げないの…?」
私には分からない、不幸にも召喚され、折角助かった命なのに、見ず知らずの種族も違う他人を必死に庇う理由が、分からない…
「…お前が助けて欲しいと手を伸ばしたからだ…どんな理由であれ、助けを求めて召喚魔法を使った…それが偶々、俺をここに運んだ…だったら…俺はその手を意地でも取る…!」
馬鹿だと笑う奴が居るかもしれない、無駄死にだと言う奴が居るかもしれない、だが、それでも構わない。
俺が守りたいと思った、召喚されたからだとか、使い魔のような存在になりつつあるからだとか、知った事ではない…!少しでも…数秒でも時間を稼いで…ニルヴァ達が来るのを…!
「英雄か、勇者の真似ごとか…いや、主人を守る犬か?…はっ!現実はそう甘くねぇよ…!」
男は嗤う、狂気的に、猟奇的に、そして今まで感じた事ない魔力を込め始める
「華々しく散らせてやるよ。せいぜい姫様を守るんだな…!」
言い終わる瞬間、男の前に巨大な業火が生まれ、発射される…コマ送りの様に時間が流れる…
迫り来る業火を…両手を広げながらルインを守る盾の様に受け止める
目の前でシオンが煙を上げながら倒れる
「し、おん…?」
「さぁって、メインディッシュと行こうか…!」
両手を広げながら近づいてくる白衣の男を睨み付けるがどうする事も出来ない
「あぁ…そうそう、お前の仲間は今頃、最新の機兵キメラと戦闘中、つまり、まず来ない。そもそも、俺がここに居る事すら気が付いて居ないだろうな」
「っ…」
「おーおー、怖い顔するねぇ…ま、すぐに死ぬんだ…どんな表情でも構わねぇけどな」
男の声が聞こえる。ルインを殺そうとゆっくりと近づいて来るのが分かる…く、そ…
(…ふむ…お主の力、見せてもらったぞ?)
…誰だ…?
(安心せい、死神ではないからのう…妾としてはお主を見殺すには惜しいと考えておる…)
実に愉快そうに声が告げる
(妾を引き抜き狂わぬ、精神…鍛えれば面白い程に間違いなく化ける身体能力…何よりもお主も気が付いて居ない潜在能力…くくっ…楽しくてたまらぬ…それにお主を待っていたからのう…)
…?何が言いたい…?
(お主を生かしてその先が見たくなった、それだけじゃよ)
…あの男を倒せるのか…?
(ふむ…今は無理じゃ。しかし、そう遠くない日に勝てるはずじゃ)
…なら…頼む…
(交渉成立じゃな、お主の身体を少し借りる。次に目を覚ましたら…)
…声を聞き終える事なく、俺の意識は深い闇に落ちて行った
「…あ?おいおい、お前はゾンビか?それとも不死か?」
倒れていた灰白色髪の男が立ち上がり、刀を鞘に入れ構えを取り始める
目を細め観察するように男を見る…何だ?さっきまでとは様子も雰囲気も違う…まるで別人だな…ちっ、嫌な予感がしやがる。一旦距離を取るか、軽く後ろに飛んでは再び聖歌魔法を発動させる為に手をかざす…瞬間、あの男が俺の後ろに立っていた
シオンの姿が消えたと思えば、白衣の男の背後に立っている…血を払う様に刀を振り、鞘に納める
男も何が起きたのか分かっていないのか切り裂かれた、右肩を抑えながら一瞬、目を見開く
直ぐに我に返った男は転移魔法で部屋の扉まで離れている
「まさか…絶対障壁を貫通してくるとは…!此奴は面白れぇ!」
狂った様に笑う男、自分の血をまじまじと確認し
「あーぁー…これは傑作だ、どんな手段を使ったか知らないが…お前はまだ研究する価値がありそうだ」
嗤う事をやめた男は殺気を隠す事なく、静かに言葉を続ける
「雰囲気も変わっちまって、まるで何か憑かれた様子だな…大きな収穫もあったし今回は失敗でいいか。…よかったな、頼れるお仲間さんもこっちに向かって来てるぜ?」
次に殺し合う時はもう少し驚かさせてくれよ?そう言い残すと笑いながら白衣の男の姿が消える…
…私たち…助かったの…?ニルヴァの声が聞こえる、ハンナの声も…キラーメイルも無事みたい…ね…
…ゆっくりと瞼を閉じた…
…気が付けば、真っ黒な花の咲く桜の木の前に立っていた…周りを見渡せば何処までも彼岸花が辺り一面に広がっている…一歩踏み出せば水の音が響く。水の上…?
足元を確認すれば、無数の頭蓋骨が敷き詰められており、恐ろしい程に透き通った水が流れている、彼岸花は頭蓋骨から生えているのだろうか…?
「おぉ…どうやら生きておるようじゃな?」
不意い声を掛けられ、顔を上げれば桜の木の根元に真っ黒な着物を着た女性が座っている。切れ長の黒い瞳、絹のような黒い髪、対照的に肌の色は真っ白、着物の上からも分かる大き過ぎない胸
「なんじゃ?妾の美しさに声も出ぬか?」
くくっ…と笑う女性、手には見覚えのある刀が握られている
「…さっきの声は、お前か…?」
「如何にも、妖刀である妾じゃよ…ほれ、見覚えがあるじゃろ?」
ゆっくりと立ち上がった女性は刀を抜き、黒い刀身を見せつけては真っ白な手を此方に差し出しながら妖しく微笑み
「妾は"黒桜"…くくっ、よろしくのう…シオン」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます