第3話 契約と魔王


お前は呪われているんだ!お前なんか生むんじゃなかった!


お前なんか○んでしまえ!私たちの為に!○ね!






…懐かしさと根深い恐怖を感じる…あの時はひどかったっけ…






○せ!○せ!そいつが居ると村が魔物に襲われる!忌みの子は○せ!


アイツの〇を見ただろう!?あれは普通の人間のするような○じゃない!アイツは魔物の仲間なんだよ!






…殴られる事なんて当たり前だった…唯々、普通に生きたいのに…そんな事も許されなかった…






「大丈夫…?今はゆっくり休むといいよ、あ。それとも私と一緒に来る?」




月明かりがとても明るかった時…村から逃げた私は、ある街の路地裏で酷い状態で倒れていた。そんな時、ふらりと目の前に現れた一人の鮮やかな紫髪の女性…彼女が私を救ってくれた、あれが彼女との出会いで…私が変われた切っ掛けだった…









「大丈夫か…?」




謎の騎士甲冑を殴り倒し、続けざまにこの城に居る住民や今の状況を説明し終えたはニルヴァはこっくりと、顔をふらつかせていた




「申し訳ございません…なんだか懐かしい夢を秒で見た気がします」




「秒で夢が見れて、内容を覚えている貴女が恐ろしいよ…」




ふふ、っと華麗に微笑むニルヴァを見つめながら苦笑いしていると、ニルヴァが見覚えのある服を差し出して来た




「大分元気そうなのでそろそろ、王に会いに行きましょう。一応直して置いたのでどうぞ」




お礼を言いながら黒い革製のジャケット、ズボンを受け取る。確かに破れていた部分も塞がっており、前よりも綺麗になって居る気がする。




「それと、これも」




銀色のチェーンに通された指輪を受け取る、礼を言いながら首から下げるとニルヴァは静かに立ち上がり、部屋を出て行った、ゆっくりと身体の状態を確認するように衣服を着る


白いワイシャツに黒のジャケット、ズボン…髪型は大丈夫だろうか…?灰白色の髪を弄りながら、なんとなくで整えていく




「おーい…あんちゃん、俺が動けるように身体を戻してはくれないかい?」




声を掛けられた方向を見れば、先程ニルヴァがバラバラにした鎧がカタカタと震えながら動いている




「あの暴力メイドめ…いつかピーしてピーな目にあわせ…」




何やら危ない言葉を二言程言った瞬間、鎧が更に細かく吹き飛ぶ。唖然としながら鎧だったモノを眺めていると、どうかなさいましたか?と素晴らしく良い笑顔でニルヴァが微笑んでいた




「あ、あぁ…あれは生きているのか…?」




「アレならその辺から直ぐに沸いてきますのでお気になさらず、気に留めるだけ無駄です」




静かに説明するニルヴァに苦笑いしながら、まぁ…自業自得か…と納得しながら、準備ができた事を伝える




「では、向かいましょう。あぁ…それと、色々とシオン様が考えている程、王らしくないので緊張しないでください」




くすくすと、楽しそうに微笑むニルヴァを先頭に後ろをついて行く…王らしくない…か






「…貴方が新しい人…?」




黒く広い石造りの廊下を歩いていると、突然背後から声がした


後ろを振り返れば、淡い水色の髪を腰まで伸ばしたシスター服に似た服に身を包んだ女性が立っていた




「失礼しました。新しいではなく、救助された方でしたか」




淡々と喋る雰囲気はニルヴァに似ているが、瞳は蒼く、生気を感じられない




「申し遅れました、シスターのハンナです。種族は水霊ウィンディールです」




ゆったりとし動作でぺこりと頭を下げるハンナに釣られるように頭を下げる




「…シオンだ」




「シオン様ですね、お怪我の方は大丈夫ですか…?」




こてんっと、首を右に傾げながらじっとこちらを見つめるハンナ




「あ、あぁ…歩けるぐらいまで回復した」




「そうですか…それは良かったです」




僅かに微笑むと、呼び止めてしまって申し訳ありません。また、お話ししましょう。と、言って通路を曲がっていた




「彼女は唯一生存している、医療班です。私がメイドを名乗る様に彼女もシスターと名乗ってますよ」




「…何故…?」




「海よりも深い理由をここで演説してもよろしいのでしょうか?」




「いや、結構だ」




では、後程、徹底的にお話いたしますので、楽しみしておいて下さい。そう言ってくすくすと笑いながら再び歩き始めるニルヴァに苦笑いをしながら大人しく付いて行く




「此方が宝物庫、この道をまっすぐ行けば謁見の間です。折角なのでアレの紹介もしておきましょうか…」




十字路を止まると、右の通路が宝物庫、直進は謁見の間らしい




「復活しているはずなので行きましょう、こちらです」




宝物庫の方に進むと鉄で出来た巨大な扉が現れた、見上げるほど大きな扉の前に見覚えのある、黒い騎士甲冑が佇んでいる




「ん?お、にーちゃんにニルヴァじゃねぇか。細切れにされたから治すのが大変だったぜ…」




「チッ…しぶといですね、溶かせば消えるのでしょうか?」




…ニルヴァは彼が嫌いなのだろうか?舌打ちが聞こえた気がするが…




「俺はキラーメイル、にーちゃんは何て言うんだ?」




ニルヴァの声は一切聞こえていないかのように此方に体を向けて来るキラーメイル…顔が無いのでどこを見ているか分からないが




「シオンだ、細切れになっても治るのか…?」




「シオン様、あまり汚物と会話をしない方がよろしいかと、キラーメイルと言ってますが只のリビングメイル、またはデュラハンのなり掛けです。因みに変態で変質的な趣味を持つ女の敵です」




成る程…何となく理解できた




「俺の説明酷くないか!?流石にいつか死ぬぞ!?」




「貴方はすでに死んでいるでしょう。と言うより、今ここで送って差し上げましょうか?」




そう言いながら、ニルヴァは腰に伸びていたキラーメイルの腕を蹴り上げ、踏み砕きながら静かに告げる




「あー…勘弁して下さい、お願いします。ちょっとした出来心です。はい」




カチャカチャと鎧を揺らしながら必死に謝るキラーメイルを殺意の籠った瞳で睨み付けるニルヴァ。何だかんだ仲が良いのかもしれない




「はぁ、…只の顔合わせでここまで疲れるとは…」




「しっかり休まないと身体とお肌が荒れちゃうぞ~、俺は鎧だから錆びるけど」




「…(イラ」




「あー、ニルヴァ…王様の所に向かおう、キラーメイルもまたな?」




慌ててニルヴァの手を取り、距離を離す様に引っ張る




「おう!すぐに会うと思うけどまたな~」




そう言って、踏み砕かれた腕を振りながら変わらない調子で叫ぶキラーメイルに手を振りながら後にしようとした時、異質な視線が背中に刺さる




「シオン様…?どうかなさいましたか…?」




「いや…何でもない」




突然止まった俺に不思議そうにニルヴァが首を傾げる、今は特に感じないが…何だったんだろうか




「御見苦しい所を御見せしてしまいました…申し訳ございません」




「気にしていないさ、此方こそ引っ張ってしまって悪かった」




「ふふ、強引な方も好みですよ♪」




「…道案内を頼む」




華麗に回避されてしまいました!と若干落ち込むニルヴァをスルーしながら進む、広いのだな、城と言う物は






少し豪華な大扉の前に来ればニルヴァが此方を振り返り立ち止まる




「ここが謁見の間です。中に王が居るので入りましょうか」




「分かった、…緊張するな」




「ふふ…大丈夫ですよ。何も取って食われる訳ではないのですから」




ニルヴァが右側の扉を押し開けて中に入って行く、その後ろに気を引き締めて付いて行く。中に入れば赤い絨毯が真っすぐ玉座まで伸びており、かなりの広さのようだが、王らしき人影は玉座には無いようだ




「んっ…ありがと、ニルヴァ」




「いえ、私は下がった方がよろしいですか?」




「待って、約束が違うでしょ?」




「ふふ…♪」




どうやら、玉座ではなく左側にある机に居るようだ




「シオン様、此方が我らの魔王…」




鮮やかな腰まで伸びた紫髪、耳は尖っており、髪よりも薄い紫の瞳、所謂美人と言う奴だろう




「ルインよ、よろしくね?」




「シオンだ、助けてくれてありがとう」




にこりと、微笑みながら席から立ち上がると俺の身体をきょろきょろとみ始める




「待て…何故そんなに見て来る…?」




「あ、じっとしていればいいですよ?」




居心地の悪さをどうにかして欲しい思いでニルヴァに助けを求めるがあっさり見捨てられる




「…良かったぁ!殆ど傷も塞がってるし、安静にしていれば元の体調になりそうね!」




しばらく無言だった、ルインは涙目で喜びながら声を上げる




「あ、あぁ…少し痛むが動く分には問題ない」




「ハンナに感謝ね…本当に良かったわ…」




成る程…魔王と言うよりは、近所のお姉さんっと、言った感じだ




「ふふ、シオン様はかなりタフのようですよ?」




「まぁ…頑丈なのが取り柄みたいな物だからな?」




「でも、ここに来た時は本当に危なかったのよ?っと…その事もしっかりと説明しないと、ね?」




こほん、と軽く咳ばらいをすると、真面目な顔で説明を始める




現状、魔王軍は機兵キメラを製造、従えている帝国と戦闘状態である事




しかし、一か月前の戦闘に敗走し壊滅状態である事




最後の望みを掛けて使い魔を召喚し、それが俺と言う事




「謝って許される事じゃないけど…ごめんなさい。貴方をこの戦争に巻き込んでしまって…」




「…いや、俺はそのおかげで助かったのは事実だ。謝る必要はない」




「…でも…」




「構わない、それよりも冒険者ギルドや王国軍に支援は求められないのか?」




しょんぼりするルインに苦笑いしながら、疑問に思ったこと聞く、帝国はかなり問題になって居るはずだ


見過ごしているとは考えずらいが…




「…残念ながら、彼らも手出しできないのよ。自分達の地域に居る帝国軍の支部を警戒するのに精一杯と言った所ね…冒険者ギルドに関しては、奴らと渡り合えるほどの実力を持った冒険者を都度らないといけないのと…彼らは特殊だから…」




「冒険者たちは各地に居ますが、危ない仕事となればかなりの対価に…それに冒険者狩りも各地で発生しています」




「…何処も余裕がない、と言う事か…」




「ふふ、安心して頂戴、貴方は村に返すから…此処の事は気にしなくてもいい」




考えてくれてありがと、と言いながら微笑むルイン、だが…








瞬間、城全体が激しい音を立てて揺れ始める!




「王、恐らく…!」




「えぇ…、此処を見つけるのが随分早いわね!ニルヴァ、キラーメイルを連れて出来る限り足止めを!私はシオンを転移魔法で村に返すわ!」




こくりと、ニルヴァは頷くとその場から消えていなくなる




「シオン、今から貴方を送り返すわ。此処での事は忘れて頂戴、貴方には関係ない事、良いわね?」




「…だが…此処が攻められていると言うならお前たちは…!」




「死ぬわね、確実に…でも、無関係な貴方を巻き込む訳にはいかないわ」




「この世界で生きているのなら、関係ないとは言えないさ」




村に帰った所で帝国が来ないとは限らない、いや、確実に来るだろう。ならば、ルインの召喚魔法が俺を選んだなら、何か出来る事があるはずだ




「シオン…ありがと…ごめんね…」




眼が眩むほどの光が身体を包み、浮遊感が襲って来る、慌てて光る床から出ようとするが機兵キメラが近づけなかった様に外に出る事ができない、くそっ! 




呪文が完了しようとした瞬間






「おいおい、貴重な研究材料を逃がそうとすんな」




「がっ!?」




目の前のルインが白衣の男に蹴り飛ばされ、ゴムボールの様にバウンドしながら壁に叩き付けられていた…

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