第2話 夢とメイドと…






「お父様!私にも魔法が使えました!」




「おぉ…!そうか、もう使えるようになったのだな…よし、一緒に練習をしようか?」




「うん!」




「ははっ!まず、ここの呪文を…」




…懐かしい夢…私がまだ小さく、魔法が初めて使えた時の…




「お父様…私は…」




「何も言わなくていい…それがお前の良い所だ…私には出来ない事がお前は出来る、誇りを持ちなさい。例え、周りが何を言おうとも…な?」




「でも…私には才能が全く…ッ!」




「今は分からなくてもいい。お前はにしっかりと才能がある、…だから、今は慌ててはいけないよ?」




…そう…私には破壊に属する魔法が一切使えなかった…それどころか癒しの魔法も…だけど、お父様は私を大切にしてくれた…でも…






「くっ!防御壁を張れ!負傷した者は下がれ!…ルイン、逃げるんだ。この場所も長くは持たん!」




「待って!お父様もッ!」




「王が逃げてどうする?安心しなさい、必ず生きて帰る。そして、また皆と一緒に暮らそう…お前には教えなければいけない事があるからな」




「ッ…はい…お父様…約束ですよ?」




「ははっ!娘を悲しませる訳にはいかないな!」







「ルイン…すまない…どうやら約束を守れそうにない…」




「喋ってはいけません!早く治療すれば…!」




「…いや、もう間に合わない…ルインよ…これを持って行きなさい…それは私の親友から貰った特別なものだ…扱える者が現れたのなら…きっと…お前の力になってくれる…」




「何を言っているのですか!?お父様を死なせません!だから…!」




「お前の成長を見守れず…さみしい、想いを…させる、わた、しを…ゆるして、おくれ…」




「お父さまぁぁぁぁっ!!!!」




…今でも鮮明に覚えている…どんなに強力な魔法を薬を使っても傷は塞がらず…血が止めど無く溢れて来て…少しずつ冷たくなって…静かに息を引き取ったお父様の姿を…







ゆっくりと目を開ける…見た事の無いレンガ造りの天井が見える…起き上がろうと身体に力を込めるが、思うよに動かない…いや、しびれて感覚だけが返って来る




「天国にしてはやけにリアルだな…」




「残念ながら此処は天国と言うには程遠い場所ですよ?あ、天国があるなら私も連れて行って下さい」




透き通るような声が聞こえ反射的に顔を向けようとするが、鈍い痛みが響き思わず悶絶してしまう




「動かない方が楽ですよ?大量出血に内臓も骨で穴だらけだったんですから」




くすくす、と小さく笑いながら声の主は姿を見せる様に見える位置まで来る


ふりふりの付いたメイド服に目立つ銀色のショートヘア、一流のメイドを思わせるような身のこなし…


だが、不思議と綺麗な顔の両目は閉じらている




「私の顔に何か付いていますか?」




小さく首を傾げてはまるで見えているかのように質問をしてくる




「いや…何も付いて居ないぞ



冗談を言おうと思ったがやめておこう、くすくすと笑っている彼女を見る限り、恐らく倍で返って来る




「私の名前はニルヴァ、氏が無いメイドです。以後お見知りおきを」




そう言うと、彼女はスカートの両端を摘まみ、丁寧に挨拶をしてくる




「俺はシオン…此処は何処なんだ…?」




「魔王城ですよ」




…は?とんでもない答えを即答したニルヴァに向かって変な声が出てしまう、当の本人は口元を抑えて必死に笑いを堪えているが、それ何処ではない




「…ふざけているのか…?」




「いいえ、ふざけては居ませんよ。此処は魔王城でシオン様は機兵キメラに襲われたのです」




淡々と目の前のニルヴァは説明を始める、機兵と呼ばれるモノは知っていた…だが、実際に見たのがアレが始めてだ…ニルヴァの説明を聞いているが全く頭には入って来ず、先程の戦闘を思い出せば僅かに震えてしまう




「安心して下さい、此処はまだ安全です。それと、貴方の村で出現した機兵ですが、冒険者の手によって破壊されたので安全でしょう」




そっと、近寄って来たニルヴァは綺麗な手で俺の手を包む、恥ずかしい事に安心してしまうのが何とも言えないが…




「すまない、みっともない所を見せてしまった…」




恥かしさからか、顔を見る事も出来ず、俯いてしまう。きっと、赤くなっているに違いない




「お気になさらず、祝福を受け付けない身で機兵と戦い生き残れるのは奇跡に近いですから、恐怖を感じるのは当然の事です」




そう言うとニルヴァは手を放し僅かに微笑んだ気がした




「ニルヴァ…君は人間なのか…?」




ふと、疑問に思った事を聞いてみる、どうも魔族と言った感じを受けないからだ


それに、祝福を受けていない身、なら分かるが…祝福を受け付けない身と言う事まで見抜いている様子だ


ベットから離れたニルヴァは扉の前で向き直ると、こくりと首を縦に振った




「…そう、か」




しばらく沈黙が部屋を満たす。すると、ニルヴァの後ろの扉…恐らく廊下に続く扉から騒がしい声が聞こえて来る、声が扉に近寄って来るとニルヴァは静かにお辞儀をした後、部屋を出て行った




ガシャンッ!ドゴッ!ガラガラッ!





打撃音と金属が床に崩れる音が響くと騒がしい声はぴたりと止まった




「…ニルヴァ…?」




どう考えても普通の音ではなかった、何かあったのだろうか…?


ギー・・・っと音を鳴らしながら、扉が開くとぼろぼろに歪んだ黒い鎧が倒れ込んで来た


再び激しい金属を聞きながら、ぽかんと呆然としてしまう




「失礼しました、汚物が元気なまま此方に向かって来たので少し弱らせておく必要がありまして…」




後から、戻って来たニルヴァは床に転がっている兜の無い騎士甲冑を隅へと追いやる


にこにこと微笑みながら物騒な事を説明するニルヴァに冷汗を垂らしながら静かに頷いておいた

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