Paradox-魔王姫を守護するは召喚されし剣士-

雪月花(ユズハ)

始まり、王都ファーベル冒険者失踪事件

第1話 対峙と異形、そして

...走る、走る、見た事も無いレンガ造りの通路を口に広がる血の味を鬱陶しく感じながら走り続け、視界が暗転する。次に目に映るは無数の氷の刃、瞬間全身に走る鋭い痛みが、身体に異物の入る違和感と衝撃が、何故?と感じる間もなく刺さった氷の刃すらも蒸発させる業火が身体を焼く。再び、視界が暗くなり目を開けると眩しい光が視界を覆い、女性の悲しい声が聞こえる



「ふぅっ、…またこの夢か」



瞼を上げれば朝日が窓から室内を照らし、自分が起きている事を確認する。木製の家具で統一され豪華さや見栄えは無いが生活する分には十分である。リアル過ぎる夢にここ数日の間、夢か現実か区別が付かない事がある、ここ最近の深刻な悩みだ



「あまり時間が無いな、訓練に行かないと」



ちらり、と壁に掛けてある円盤状の時計を見ては少しの焦りを感じながら、頭を左右に数回振った後、ベッドから出る事にした、取り敢えず何か食べて行かなければ、と思考を巡らせていると、ドアが激しく叩かれ思考が止められる



「シオ兄!起きてっ!早く!」



やけに焦った声でドアが壊れるのでは?と思う程勢い良く叩かれる、ドアに近づき開けてやると12歳程のブロンド髪の少年が突進するように突っ込んで来る。少年…いや、レングは顔を真っ赤にしながら目の前で叫んでいる、そっと彼の頭を押さえて止めては



「詳しく教えてくれ、叫ばずにゆっくり、な?」



ゆっくりと撫でながら、聞き返すとレングは深呼吸をした後、ゆっくりと話し始める



「村の北の方にある"祈りの遺跡"の広場に魔物が出たんだよ!さっき見たんだ!」


「"祈りの遺跡"の広場に…?…特徴と何体居たのか、覚えているか?」


「えっと…多分、沢山…それで緑色で棒を持ってる奴もいたよ!」



…ゴブリンか…変だな、彼奴らが人里に降りて来るのは冬眠しなかった奴かはぐれぐらいだ。



「レング、団長に知らせて自警団を集めるんだ。それと、念の為に冒険者の手配を頼むよう伝えてくれ」



そう言って、レングを優しく外に送り出すと勢い良く走り出して行く、転ばなければいいが…



「…先に様子を見に行くか」



親父が残していった軽く反りのある片刃の剣…何でも東の地域で使われている刀と言われる武器らしい。それを腰紐でくくり、祈りの広場へと走り始める



――――――――



深い森に囲まれた場所にそこはある、白いレンガで埋め尽くされ森が拓かれた場所、中央には遺跡と呼ばれる突如出現するダンジョンが存在する。ダンジョンとは本来、魔物の巣窟であり、冒険者が一獲千金を夢見て潜る場所だ。しかし、偶に魔物が寄り付かず、傷や病気を癒す力を持つ泉のみが出現する事がある。誰が決めたのかは分からないが、そう言うダンジョンを祈りの遺跡と呼ぶ。一説には光のように輝く一対の翼を持つ者が祈りを捧げた時、出現するらしい



「…15体か、どう考えてもはぐれじゃないな…」



小柄な人間ぐらいの身長を持ち、緑色の肌、ぼろきれの様な服装に手にこん棒や切れ味の悪そうな石のナイフで武装している、ゴブリン達の丁度死角になっている茂みから様子をうかがう。過剰過ぎるほどに辺りを警戒し、息も荒く興奮状態になって居るもの、何かに怯える様に武器を振り回し錯乱している者…まるで何かから逃げてきたように感じるな…もう少し様子を…ッ!?



…キシャキシャキシャ…ズズッ…


…腐臭…?それにこの金属同士を擦り合わせる様な音は?


ギャッ!グギッ!?!!?



突如、ゴブリン達が悲鳴を上げたかと思えば、鋭い刃で切られるバターの様に15体全員のゴブリン達が輪切りにされる!何が起きたかもわかっていないゴブリンは輪切りにされた身体が地上に落ちるまでに眼球を回しながら崩れていく、やがてその場を血の匂いが覆い尽くし。その現状を起こした原因が姿を現す…ふわりと音も立てずに空から舞い降りた、腐肉と金属の混じった"人型の異形"ざっと見れば5m程の長身で一部を動かす度に金属が擦り合う音が響き、金属と腐肉を縫う様に繋がるパイプからは何かが送らている。異形は右手に持つ死神の様な大鎌をくるりと回転させながらゆっくりと周りを見回し、俺の隠れる茂みで動きを止めれば、包帯で何重にも巻かれた顔が醜く嗤った気がした



『…まずいっ!』



直感的に右横に飛び退けば、先程まで俺の隠れていた茂みは綺麗に真ん中から上を切り飛ばされていた、体勢を整え"異形"を視界に捉える、嫌な汗が背中を伝い自然と息が上がる、吸い込む息に腐臭が混ざり肺や嗅覚すら腐って行く様な感覚を押し殺し、鯉口を切り臨戦態勢に入る。"異形"は此方をただ見つめながら大鎌を回し続ける、刃が空を切る音が響きお互いに対峙する…



『どうする?どう考えても祝福を受けていない人間では歯が立たない、いや、祝福を受けていたとしても此奴と戦えるのか…?』



そんな事を考えている間も"異形"はただ此方向いて顔を歪め少しづつ距離を縮めてくる



『くっ…逃げた所で此奴を連れて帰る訳にはいかない…!いや、逃げれないの間違いか…団長が冒険者を連れて来るまで時間を稼ぐしかっ…!』



深く息を吸い込み、柄に手を添えて姿勢を低くする、一気に駆け出しては"異形"に肉薄する。渾身の力を込めて、"異形"の右肩を下から切り上げる!…が、まるでどの部位に攻撃されるのが分かっていたかの様に"異形"は右半身を後ろに反らす、浅く皮膚を裂いたのか緑色の液体が裂けた皮膚から垂れるがどう考えても致命傷にはならないだろう。すぐさま距離を離そうと踏み込んだ脚に力を込め後ろに飛び退こうとするが、瞬間"異形"の右手がぶれた…反射的に自分と"異形"との間に刀を滑り込ませる

ドンッ!強い衝撃が後頭部を背中を腰を捉える、肺から空気が強制的に抜き出され咳込みながら顔を上げれば"異形"が悠然と佇んでいる、立ち上がろうと身体を動かした瞬間、全身に激痛が走り、胃から競り上がって来るモノを地面に撒き散らす。真っ赤な血が足元を染め、呼吸が荒くなる、よく見れば左の横腹が無くなっており中身が見えている



「…直撃は防いだと思ったのだがな…」



綺麗に刃を切られた刀を投げ捨てながら、ぼやく様に一人事を零す。木に打ち付けられた姿勢のまま呆然と"異形"を眺める、"異形"はにやにやと顔を歪ませながらゆっくりと近寄って来る、止めを刺すつもりだろう…ゆっくりと瞼を降ろし次に来る衝撃を待つ…が、瞼を降ろしたにもかかわらず視界が明るい



「…?」



不思議に思いもう一度目を開ければ、身体の周囲を紫色の光が包み込んでいる、"異形"に顔を向ければ見えない壁があるのか"異形"は大鎌を滅茶苦茶に振り回しながら吠えている。一層光が輝きを増すと浮遊感と同時に視界が真っ黒になる、ゆっくりと意識が消えて行くのを感じながら再び瞼を降ろした

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