第22話
——まずいまずいまずい。調子に乗って踊り過ぎた!
内務卿を任されているフラン侯爵の二女ミリシャ・ルー・フランとのダンスを終えた俺を待ち構えていたのは、ロリ系やクール系清楚系などの色とりどりの美女たちからのダンスの誘い。
——それを断れる男がこの世にいるだろうか?いやいない!いる訳がない!
ということで次から次へと十人十色の美女たちを抱き寄せてその感触と温もりを味わっていた俺は、窓から見える薪が真っ赤に燃える
「このホールで一番の美女を見逃すとは、今宵の紳士たちはあまり目が良くないらしい」
ダンスフロアを眺めながら談笑する紳士淑女の背後で我関せずと言った態度でダンスフロアを遠目に眺めていたカリーナ王女を見つけた俺は、初対面のカリーナ王女の興味を惹くために何だこいつはとクスリと笑ってしまうような、如何にもなキザな台詞を少しおどけた感じで言ったのだが——
「申し訳ありません。不躾でしたか?」
——その思惑は逆効果だったらしい。
カリーナ王女は何だこの不愉快な男はというような顔で俺を睨み上げ、そう言えばクレインから国賓が来ているんだったなと思い出したように取り繕う様な笑みを浮かべた。
「いいえ、不躾なことなど何一つとして御座いませんわ、クレインの方。スペンサー王国へようこそ。歓迎致しますわ」
「ありがとうございます、誰よりもお美しいカリーナ王女殿下。おれ、私はアルベルト・グレイ・スミス。クレイン陛下から伯爵の爵位を賜っております」
俺の名乗りにカリーナ王女は大袈裟なくらいに目を見開いて驚いた。
アルベルト・グレイ・スミスが若いとは聞いていてもこんなに若いなんて思ってもいなかったのだろう。
カリーナ王女はへぇ~と感心するような顔で俺を見上げ、固く閉じていた口を
「まあ、お若いとは聞いておりましたが、わたくしとさほど歳の変わらないお方だとは思いもしておりませんでしたわ。それに、とても美男子でいらっしゃる。御国ではご令嬢たちが一時も放っては置かないのではないですか?」
「ええまぁ、私の顔
銃器関係で大金を稼いでいる上に貴族の中でも上位の爵位である伯爵位を持つ俺は、たとえ不細工でも今と変わらないくらいにモテていただろう。
「ですがそのおかげでダンスの腕は随分と上がりました。よろしければ一曲踊ってみませんか?笑い話の一つにはなるかもしれませんよ」
俺の自虐と謙遜を含んだ誘いに、カリーナ王女は
「わたくし、人を笑い者にして楽しむ趣味はございませんの。笑い者になりたいのなら他の方をお誘いになって」
——……は?
「お、お待ちください」
まさか断られるとは思っていなかった俺は、つい反射的に、立ち去ろうとしたカリーナ王女の行く手を腕を上げて塞いでしまった。
あり得ない程に無礼なマナー違反をしてしまった俺を、カリーナ王女の怒りで吊り上がった眼が睨み上げる。
「非礼は重々承知しておりますが、もう一度私に話をする機会を下さい。少しで構いません。大事な話なんです」
まずいと思った俺は、さり気なくカリーナ王女をダンスに誘うことを諦め、重要な話があるから聞いて欲しいとカリーナ王女に頼み込んだ。
「わたくし、力づくで女を従わせようとする殿方と交わす言葉は一言だって持っておりませんの」
そう言ってカリーナ王女は口元を隠していた扇子で俺の腕を何の躊躇も遠慮も無く
「お退きなさい、無礼者。邪魔ですわ」
♦♦♦♦
城から聞こえる優雅で華やかな音楽に羨ましさは感じないけど、楽しそうな雰囲気を感じながら一人カンテラの小さな明かりを頼りに調理場の裏にある洗い場で汚れた手術道具の手入れをしていると、自分がどうでもいいちっぽけな人間に思えて、惨めとまではいかないけど、何で僕はこんな所でこんな事をしているんだろうと遣る瀬無い気持ちにはなる。
僕は大きく息を吸って、ため息と共に体に溜まった疲れを吐き出した。
「そういえばそういうこともあったなぁ……」
田舎の木っ端男爵家の更に木っ端である僕ではあるが、一応貴族家の一員という事で一度だけ舞踏会に参加した事がある。
「分かってはいたんだけどね」
分かってはいてもついもしかしたらという期待を持ってしまうのは男の性だ。
そして僕は誰にも相手にされなくて死ぬほど惨めな思いをした。
「仕方のない事だけどね」
舞踏会は未婚の女性が優良な嫁ぎ先を自身の魅力で勝ち取れる唯一の場所だから。
だから僕みたいな一考の価値すらない人間の相手をしている暇なんて彼女達には一秒だってない。
時は金なり!だからね。
「何だ……?銃声?」
ぱん、ぱん、ぱぱ、ぱん……ぱぱん、ぱぱぱん、ぱん、ぱん。
闇夜に鳴り響く、一方向からだけでなく多方向から聞こえる銃声に、僕の体はゾクリと震えて血の気が引いた。
「何だぁ?何の音だぁ?」
洗い場の後ろにある調理場の裏口から顔を出した料理人らしき青年と目が合った僕は、「あっ……」と間抜けな声を出してあっちを見ろという風に銃声の聞こえる城の外へ顔を向けた。
それで僕が何を言いたいのか分かったのだろう。
銃声のする街の方へ顔を向けた料理人らしき青年は、血の気の引いた顔で僕を見て、何も言わずに調理場の裏口のドアを閉めた。
城壁の輪郭を照らす赤い明かりと空に上る黒煙。
その光景をじっと眺めていた僕は、止まっていた時が動いたみたいに我に返った。
——ああ、どうしよう……まだ手術道具の手入れが終わっていないけど……どうしよう。今すぐ宿舎に戻るべきか?いや、手入れを終わらせてから戻るべきか?どうしよう……どうしよう……。
冷静に考えれば手術道具の手入れなんて宿舎でも出来るのだから、迷うことなくすぐに戻るべきだったのに、動転していた僕は宿舎に帰る事も手術道具の手入れを再開する事も無く、ただただ右往左往していた。
「ウィル?そこに居るのはウィルか?!」
非番で宿舎に居るはずのロニーの声に、僕は「ロニー?!」と安堵と驚きの混じった声を上げた。
「お前こんな所で何してんだよ?今がどんな状況か分かってないのか?」
「分かってるよ」
どうしようどうしようと右往左往していたのが恥ずかしくて僕はついその恥ずかしさを誤魔化す苦笑いを浮かべてしまった。
「なに笑ってんだよ、馬鹿野郎。笑ってる場合じゃねえだろ。今すぐ兵舎に戻るぞ」
ロニーのぐうの音も出ない正論に、僕はすぐに顔から苦笑いを消した。
「どうなるのかな?」
手入れをしていた手術道具を肩掛け鞄に仕舞って兵舎に向かって走り出した僕は、カンテラで足元を照らしながら走るロニーに聞いた。
「分かったら誰も苦労しねえよ」
そりゃそうだ。
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