第三話「悲しみの底から」

『-過去④-』

「リストラ…だと!?」

突然過ぎるお知らせだった。

「はあ!?」

「あれ?隼人じゃないか!」

親友で仕事の同期の拓未(たくみ)だ。

「リストラ…?え?嘘だろ!?」

「ああっ…。会社に行ったら、いきなりリストラされる報告を見たんだ」

「え!?ああっあのお知らせか…」

「それが本当だとしたら、どうするんだ?」

「そうだな…。しばらく失業になる」

「学校の先生でもどうだ?」

「いやいや、そんな教師資格取れないって!」

「じゃあ、どうするんだよ?」

「しばらくアルバイトでもするよ」


『-今-』

「あれからどうなったの?」

「あれから…仕事がなかなか見つからなくて、諦めようとした時に親友の父に『レストランの店員として雇ってやってもいいぞ?』と言われて、一時期レストランの支配人にまでなれたんだ」

「え?すごい!」

「いや、すごくないよ。それで、その間に、穂香と出会ったんだ」

「へえ」

「その間に、病気の治療もしてたんだ」

「そうなんだ。お疲れ様」

「ありがとう。疲れるけど、全部甲斐があったよ」

「そうだね」

穂香の笑顔は、俺の元気の源だ。

ずっと、この笑顔を守りたいと思った。

「…よかった」

「あれから、真江さんはどうなったの?」

「うーん。義理の兄さんと結婚したよ。結婚式も行った」

「どうだった?」

「意外と楽しかった」

「怒りはもちろんなかった」

「恨みもな…」

「…そうなんだ」

「うん、そのおかげで穂香と出会えて、仲良くなって、結婚しようとする関係になったからな」

「そうだね。良かった」

「だけど…俺はその直後に誤ちを犯したんだ」

「誤ち?」


『-過去⑤-』

プルルルルッと電話が鳴った。

「はい、もしもし?」

『藤崎隼人さんですか?真江の母の佐藤一海(さとうかずみ)と申します』

「はい、藤崎です。どうかなさいましたか?」

『実は…うちの娘が行方不明になったんです』

「え?ゆ…行方不明?」

『はい、そうなんです。そこで、義理の兄で夫でもある晃さんに聞いたんですけど、彼にも心当たりがなくて…』

「そうなんですか。すみません。僕にも心当たりはないです」

『そうですか。夜分遅くに失礼しました。では、失礼します』

ガチャッと電話を戻した。

「はあー。いきなり行方不明になってどうするだよ?」


真江は、暗闇の中、ハアハアッ息を荒くしながら逃げた。

「君…俺の女なれよ?」

「いっ嫌!!ち…近寄らないで!!」

「抵抗するなよ?もっと痛くするだけだ」

「嫌!!嫌だ…!!やめて!!」

「おい!何をしている?!」

「え?は…隼人?」

「やっぱりここにいたのか…。大丈夫か?」

「うん、大丈…夫。ううっうああっ」

ボロボロになった服。一歩遅ければ失う貞操。

「大丈夫だ。もう大丈夫だ」

隼人は、ポンポンと真江の頭を優しく撫でながら、ぎゅっと抱きしめた。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

(まったく…。また惚れてしまうだろう?)


「真江!」

「晃さん!」

パシッと強く平手打ちをされた。

「あ…晃さん?」

「どこに行ったんだ!?お前…結婚式の後に姿を消すとは…一体どういうつもりだ!?」

「すみません」

「俺たちは、もう夫婦だ。夫婦だから、助け合わなければならない。

だから、君のことは、妻として見ている。なのに…お前は…!!」

「すみません」

「まあまあ、晃さん。真江さんは晃さんのことを想って言わなかったんですよ?」

「何をだ?」

「あ…晃さん。私、もう少ししたから、犯される所でした」

「…!!そうなのか」

「はい、すみません」

真江はペコリと深くお辞儀をした。

(謝る必要なんてないのに…)

「無事で何よりだ。今度からは、俺と共に行動をしろ」

「分かりました。ありがとうございます」


「真江…真江」

「んっんあっ嫌。だめよ!んんああっ」

「隼人?」

「どうしたの?」

「お前、夫がいるにも関わらず…俺とこういう事していいのか?まあ、僕はどうでもいいけどな」

「平気」

「そっか。不倫してるってことがばれたら、ただじゃ済まさないと思うが…」

「そうね」

「だからってどうして?」

「いいの。貴方だから…」

スッと隼人の唇をなぞりなから、真江は、自分の舌を入れた。

「んんっんんんっ!!」

(なんだよ…。なんだよ!!)

理性を失うような笑顔。眼差し。

そして、体の相性。

「あっ反応したわね」

「!!触るな」

「だめ?」

「だめに決まってる」

「んんっああ」

その夜は、切なく、悲しく、そして、過激な夜だった。



(あっそうか…!)

葬式にいるんだ。

「ううっ真江!!」

「真江!どうして自殺なんか…!」

嘆き悲しむ真江の母。

真江の夫・晃と彼らの娘・奈奈と義理の父。

そして、泣いてる隼人だ。


「僅か…でしたが、子どもは、必ずこの僕が育てます」

(そうか。俺が殺したんだ。本当は自殺じゃなくて、他殺だって…)

『隼人。私を殺してくれる?』

『なんでだ?』

『奈奈には悪いけど、私…もう生きれない』

『なんで…?』

『晃さんに無理やり犯されたの。それから何度も…。その後に妊娠して…』

『愛してないのか?』

『愛してるわ。すごく』

『だが…!!』


『お願い。死なせて』

『!!』


今までにない悲しみな笑顔。

涙を流した。


真江は自分の心臓を刺した。血だらけになった。俺はとっさに現場から離れた。


『貴方を忘れないから』


『ごめんね。隼人』


自殺。他殺。


『心的外傷後ストレス障害』

これが彼女が自殺した原因だ。


『-今-』

今日は真江の忌日だ。

「ごめんな。真江」

「ママ。ママ」

「真江さん」



「奈奈ー!元気か?」

「うん!おじさんも元気?」

「元気だぞー!」

キャッキャッと笑う奈奈。

その横で優しく微笑む晃。

「真江がもし生きてたら、奈奈の成長が見れたかもな…」

「そうですね」

「こんな…可愛らしい子供を持ってると知ったら…」

「?」

晃は、そっと奈奈の頬を優しく触った。

「パパー!ママは、いつ帰ってくるの?」

「ママは、もういないよ。奈奈」

「ううっママ、ママ!!」

「奈奈。おじさんからサプライズがあるぞ!見たい?」

「え?うん!見たい!」


ジジッー

『このDVDを見ている晃さんと奈奈へ。

ママだよー!!』

「ママ!!ママだ!」

『うーん。何話そう?あっ私の過去から話そうかな?ママは、薬剤部の学生なの!』

「やくざい?」

「薬を作る先生だ」

『ママと隼人さんは、恋人だったの。だけど、私は晃さん、パパにその事を隠して…』

「こいひど?」

「好きになった二人が一緒になるってことだよ」

『パパ、奈奈。ごめんね。

ママ…先に行くなんて』

「真江…」

『奈奈。大きくなった?ママ、ずっと奈奈が生まれるの楽しみにしてたよ!だから、ママがいなくても、パパと二人で元気いっぱいに暮らしてね!』

『あっあと!パパ!!ちゃんとご飯食べること!!奈奈のことお願いね』

『幸せを教えてくれてありがとう。さようなら』


「このDVD…晃さんにあげます」

「ああっありがとう」

「パパ?なんで泣いてるの?」

「なんでもないよ。奈奈、帰るぞ!」

「うん!バイバイ!」

(これで、やっとだな。真江)


「行こうか。穂香」

「うん」


優しい光が一瞬見えた気がした。

それは、彼女の笑顔のように....。


〜終わり〜

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少年の過ち-ボクと俺- ドーナツパンダ @donatupanda

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