第二話「残酷な事実。不幸の始まり」

『-過去③-』

「もう一つの人格って…?」

「俺と僕」

「え?」

「俺は、ハル。僕は、隼人のほうだ」

「ふーん。すごいね」

「はあ?それだけかよ…?」

「なんかリアクションができないんだけど」

「うん、まあ、そうだよな…」


「なんか…気まずいな」

「ハル?だっけ?」

「うん、そうだけど?どうした?」

「ううん、ただ不思議だなって思っただけ…」

「ふーん。君が…真江か?」

「うん、そうだけど?」

「あいつとはセフレだろ?」

「そうだけど?」

「好きになったりとかしないのか…?」

「するけど、彼には内緒ね」

優しく微笑む真江の横顔をじっと見つめた。


「笑顔、可愛いね」


「ふーん、なんかいいね」

「え?そうかな?まあ、もうとっくに、彼は本気じゃないのは知ってるよ」

「悲しくないのか?」

「そんなことないわ」

真江が少し髪をかきあげる仕草に、ハルはドキッとなった。

「だって、彼だからいいの」

「いや、だけど…」

「だけど…?」

「いや、何もないよ」

「そう…ならいいわ」

「あっごめん!」

「何?戻ったの?」

「え、誰のこと?」

「ううん、何もないー!」

「そっか…。僕と別れる?」


「え?急にどうしたの…?」

「浮気してるだろ?」

「え?そんなことないわよ?」

「ほら」

パラパラと真江の頭の上から数々の写真をばら撒いた。

「え?これ…?」

その写真の数々は、真江とある男性がキスしたり、熱い抱擁をしたり…数々の熱愛写真だった。

「お前、なに猫被ってるんだ?」

「被ってないわ!誰かの仕業よ!!」

「そうか…?」

冷酷過ぎる眼差しに口調。

真江にとって、今まで言ったなかで、一番残酷な言葉だった。

「なんでなの?私はこんなにも愛してるのに…?」

「お前…僕とは本気か?」

「そうよ!」

「なら…」


「え?」

「なんだ?嫌か…?」

「……っ」

「やりたいって思うか?」

「え?」

「大丈夫だ」

そっと優しく真江の少し赤めの頬に触れながら、優しくキスをした。


「んっんんあっ…」

「真江…」

「本当にいいんだな…」

「うん、平気よ」

(バカな女だな…)

「……僕の女になれ」

「え?でも…」

「だめか?」

珍しく戸惑う真江の顔を見て、隼人はじっと見つめた。

「ううん、違うの」

「なら…なんだ?」

「君はさ、いつも僕には気にかけてるよね?」

「うん、そうだよ?」

少しドキドキした。

「だめ…?」

「いや、だめとは言ってない」

ほんの少ししか感じなかった。

彼女の愛を。


レイプ。未婚妊娠。

シングルマザー。


結婚する前の母を例えるとこうなる。


結婚なんて、ただの形に過ぎない。

僕にはそう思ってる。

「真江」

「なに?」

「僕に…愛をくれ」

「え!?急にどうしたの?」

「い…いや、あの、その…」

顔が真っ赤になった真江を隼人は後ろからゆっくりと抱きしめた。

(え!?なななななに…!?)

「だめか…?」

「真江…」

(やっぱり私…彼の事好きなんだ)

チクチクと心が刺すような痛みは、最近多くなった。


セフレ。恋人。

彼氏。彼女。


「真江。僕は…」

「ああっここにいたのか」

グイッと真江の長い髪を引っ張った。

「お兄様」

「おいおい…。俺はお兄様ではなく、『旦那様』…だろ?」

「義理の兄です。旦那様です」

「は?」

「すみません。実は婚約があって」

「はあ!?お前…!!」

平手打ちをしようとしたが、ボロボロに泣いた真江の姿を見て、隼人は手を収めた。

「お前…出て行け…」

「え?は…隼人?」

「出て行け!!!」

冷酷な口調。冷たい眼差し。

「お前…もう二度と俺の目の前に現れるな…」

「ほら、行くぞ?真江」

「隼人。…ごめんなさい」

「…何も言うな」


この時から、女性を愛することができなくなった。


麻薬。酒。

両親の離婚。

母の自殺。


ある精神病を患った。

二年、三年。


かつて愛した女性の事を忘れられなかった。


「まあ…いいっか」

佐藤真江(さとうまえ)。

最初に愛した女性。そして、失望した異性だ。

「兄さん?」

相田将暉(あいだまさき)。腹違いの兄。

「おいおい…!隼人」

呆れた顔をしながら、将暉はそっと頭を撫でた。


「なんだよ?」

「お前な…。真江さんはな?お前の事気にかけてたから、言わなかったんだぞ?」

隼人の黒い髪をクシャクシャにしながら、将暉は笑った。

「まあ、そうだな」

「これからの恋は、もっと良くなるって!」

「ああっそうなると信じてるよ」

苦笑いをした隼人は、自分にはまだ幸せが待っていると信じていた。

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