会いたい気持ち
世界を融合する、とんでもないことを言ってきた謎の声。(精霊とは言っているが)
おまけに、俺や彼女の素性まで知っている。
ーーー本当に何者なんだ?ーーー
まあ、この声が精霊と言っているので、俺は精霊と呼ぶことにした。
「ところで、なんの精霊だ?」
『何の?‥‥‥う〜ん‥‥‥まあ、なんでもいいじゃないの?」
俺の質問に暫く考えて、曖昧な返事をしたので、なんなんだこいつは!的な思いが急に湧き上がる。
けど俺は、彼女の事が一番気にかかっていたので、
「そうだ!お前の事より彼女だった!早く彼女に合わせてくれよ!」
俺は彼女の事を、ヒロミの事を思い出すと、空を見上げて怒鳴る様に言った。
『慌てない、慌てない。それにしても君はまだ気づかないかな?』
「何がだよ」
『う〜ん‥‥‥その様子だと気づくのにまだまだ時間が掛かりそうだから言うね。君らは選ばれたんだよ。世界から』
俺は精霊が何を言っているかわからなくて、キョトンとして立っていた。
「世界から選ばれた?」
『うん、そう。だって君の世界と彼女の世界は消えかけていたからね』
「はあ?消えかけた?言っている事がわからないぞ!」
『まあ、今はそれでいいよ。けどね、これだけは言わせてね。君らは‥‥‥君ら二人は一年前に選ばれたんだよ。この場所に来た事で。世界の特異点として』
俺は流石に精霊の話について行けなく、ただ呆然と聞いているしかなかった。
ただ、わかったのは俺と彼女が何かに選ばれたと言うことだけ。
「世界が消える?特異点?もうどうなっているかわからん!」
『あははは。まあ、いずれ分かるよ。おっと、時間があまりないや。朝日 ヒロミ。今から彼女に会わせるから』
「本当か⁈」
『ああ、だから強く念じるんだ!心の底から彼女の事を!』
俺はそう言われて、彼女の事を、会いたいと言う気持ちを心の底から叫んだ。
会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!‥‥‥
「俺は‥‥‥俺は!彼女、朝日 ヒロミに会いたい!!!」
すると心の中から何かが湧き上がる様な感じがしだした。その気持ち‥‥‥愛おしい気持ち。
そして俺の全身が薄く白く光り出した。
それはまるで体からオーラが出ていかの様に。
「なあ、なんなんだよ!」
それと同時に、胸ポケットにしまってあったスマホが振動する。
スマホを取り画面を見た俺は、驚き固まる。
「なんなんだよ、これは!」
それは物凄い勢いで、下から上へと、メールやライン、電話の着信履歴がスクロールしていく。
「これは‥‥‥まさか!」
『そうだよ。それは彼女の気持ち。彼女の君を思う気持ち。君もそうだろ』
そう、これは全て彼女が俺に送ったラインやメール、そして着信履歴。
俺はこれを見て涙が溢れた。
彼女は俺のことを思っていたのだと。
けど、不安だった‥‥‥
彼女は俺の事を完全に忘れているのではないかと。
あの「見えてますか?」のメールを見るまでは。
だから不安だった。不安で、不安で仕方なかった。
けど‥‥‥今、俺は確信した!
俺は!俺は!俺は!
「俺は!朝日 ヒロミに会いたい!物凄く会いたあああい!!!!!!」
その叫びと同時に、俺の体はこの白い空間か姿を消した‥‥‥
『やれやれだな。けど‥‥‥また会おうね。朝日 ヒロミ‥‥‥』
その言葉を最後に白い空間は徐々に閉じていった‥‥‥‥‥‥
‥‥‥
‥
朝の小鳥がさえずる声が聞こえる。
日が昇り、カーテンの隙間から日が差し込み、徐々に俺の顔に当たりだす。
日差しが俺の目に当たると、俺は眩しさのあまり唸りながら目を覚ます。
「う、うう〜ん‥‥‥ま、眩しい‥‥‥」
俺は眩しさのあまり、右手で目を覆うと、上半身をベットから起こした。
まだ眠いのか、頭がボーとした状態。
けど、頭の脳裏に、
『彼女に会わしてあげる』
言葉が蘇る。
「‥‥‥彼女‥‥‥ハアッ!彼女!朝日 ヒロミ!」
俺は自分と同じ名前の彼女の名を叫ぶと、勢い余ってベッドから落ちた。
「ドシ〜ン! アッ!イテッ!‥‥‥て、ここは!?彼女は!?‥‥‥ここは‥俺の部屋‥‥‥」
俺は辺りをキョロキョロと見渡したが、見慣れた机、見慣れた本棚、見慣れたベッドがあり、ここは俺の部屋だと認識する。
「あれは夢だったのか?‥‥‥いや、違う!あれは確かに現実だ!」
俺はベッドの枕の横に置いてあるスマホを取ると、直ぐに画面を見た。
だがその画面にはなにもなかった。
あの「見えてますか?」のメールさえも。
残っていたのは、一年前の二人の写真とメアドと携帯の番号。
俺は肩を落とし、あれは夢だったのか?と思い始めた。
すると、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
多分、妹の明美が朝食が出来たので呼びに来たんだろうと思った。
ドアのノブを回す音が聞こえて、ドアを開ける明美に俺は、
「朝食の用意ができたんだろ。後から行くよ」
すると明美は、腰に手を置くと少し不機嫌な顔をし、
「なあーに寝ぼけてんのお兄ちゃん!今日から新学年がはじまるんでしょう!早く朝食食べて準備しなきゃ!」
「はあ?まだ春休みだろ?」
「まだ寝ぼけているの!今日は四月八日、月曜日よ!」
「はあ?月曜日だって?」
「そうよ!早く降りてきてよお兄ちゃん」
俺はこの時、まだ夢の中かと思った。
だってそうだろ!俺は春休みに入ってまだ一週間ぐらいしか過ごしてなかった。
‥‥‥はず。
「一体どうなっているんだ?」
俺は仕方なく下に降りて、リビングで朝食を食べ、学校にいく準備をした。
「本当にどうなっているんだよ」
俺は準備が終わると、玄関で待つ妹の明美の所に行くと
「なあ、本当に今日は四月八日か?」
「お兄ちゃん!まだ寝ぼけてんの!」
そう言うと明美は俺の顔をジィと見て、なにを思ったのか、クスと笑うと、
「ねえ、お兄ちゃん。モーニングキスしてあげようか?」
「はあ?なに言ってんだよ、お前は!」
「美少女のモーニングキスよ♡一発で眼が覚めるわよ♡」
「なあ〜にが美少女だよ」
俺は軽く明美の頭をポンと叩くと、靴を履き玄関を出ようとする。
後ろでは明美がムスとした顔をして俺を見る。
「けど‥‥‥明美。その気持ち嬉しかったよ。ありがとう」
明美は俺の言葉に急に笑顔になると
「うん♡」
頷くと俺の左腕に絡んできた。
「ちょっ!歩きづらいって!」
「いいの♡」
俺と明美は玄関先で、両親に挨拶をすると玄関を出た。
その時、明美が
「ところでお兄ちゃん、隣に引っ越してきた人の、偶然かな?」
「何が?」
「名字よ。うちと同じ朝日だって」
「ふ〜ん、で」
「で、て。お兄ちゃん関心無いの?」
「別に」
「もお〜!。あっ!あとね、隣の人、私達と同じ高校に通うんだって」
「へえ〜」
「本当にお兄ちゃんは無関心なんだから!」
無関心になるのは当たり前だった。
今の俺は、朝日 ヒロミの事しか頭になかったから‥‥‥
そうたわいない話を、俺と明美がしながら隣の家に近づいた時、少女の「行ってきます」の挨拶が聞こえ、俺たち二人の前に現れた。
少女が着ていたのは、新品の女性用のブレザーの制服、俺たちと同じ高校の制服だ。
綺麗な黒髪が肩まで伸びた、つい先日まで中学生だとかもしだす姿は、妹と同じぐらいの美少女。
向こうが俺たちに気づくと、軽く会釈をしてきたので、こちらも会釈をすると美少女は
「お姉ちゃん!早く行こうよ!」
「お姉ちゃんがいるのか?」
しかし 俺はこの時程、運命を、奇跡があるんだと思った。
そして思い出す。あの精霊の、
「彼女に会わしてあげる」
の言葉を。
その女性が見えた時、俺の動きが止まった。
相手も俺を見ると驚いた様に動きを止めた。
あの黒く綺麗なストレートの髪。まるで吸い込まれそうになる綺麗な瞳、整えられた顔とスタイル。
そう!俺の目の前に居るのは
一年前のあの日から‥‥‥
会いたくても会えなかった人。
俺の今一番好きな人。
「‥‥‥朝日 ヒロミ」
その人だった。
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