勘違い その1

俺の隣の家から出てきたのは、一年前のあの日から俺の一番会いたい女性、朝日 ヒロミ(女)だった。


俺は、彼女の姿を見ると体の動きが止まる。

そして、心臓の鼓動が速くなる。

今にもはち切れんばかりに。嬉しさのあまりに。


彼女も俺の姿を見て、驚いて体の動きを止めた。

そして俺と彼女は、お互いの顔、いや、瞳を見てお互い口から言葉が出そうになった。



「「あっ‥‥‥」」



俺は動きを止めた体を、一歩彼女に近づける。

彼女も俺に会えたことが嬉しいのか、瞳を潤ませて笑顔を‥‥‥笑顔を‥‥‥笑顔が、


いきなり顔色が曇り、目を細めると、プイッと俺に背中を向けると



「行こう!」



少し怒ったように彼女の妹に言うと、スタスタと先に歩いて行ってしまう。

そんな彼女を見た彼女の妹は



「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん!まってよおー!」



彼女を追いかけるように、小走りで行ってしまった。


俺と妹の明美は、余りの彼女の豹変ぶりに驚き、キョトンとした顔で、その場に立っていた。



「‥‥‥ハアッ!、ねえ、お兄ちゃん?」


「‥‥‥‥‥‥」


「お兄ちゃん!」


「‥‥‥えっ、な、なんだよ明美」


「今の人‥‥‥綺麗な人だったね‥‥‥」


「あ、ああ‥‥‥」


「けど‥‥‥お兄ちゃんを見るなり、嬉しそうな顔になったと思ったら、今度は怒っていたみたいだけど‥‥‥あの人、お兄ちゃんの知り合い?」


「‥‥‥はあ?」


「お兄ちゃん!私の話聞いてる⁈」


「‥‥‥えっ?‥‥‥あ、ああ‥聞いてる‥‥‥」



明美まで俺の曖昧な返事に、少しムスッとした表情をさせて俺を見る。

けど、そんな返事しかできないんですよ。

今の俺は。

彼女、朝日 ヒロミにやっと、やっと会えたのに‥‥‥

あと少しで手に届きそうだった蝶々が、目の前を飛んで逃げて行ってしまった。

そんな心境の俺に、いつも通りの返事なんて返せない。

しかし何故?彼女は怒ったんだろうか?



「お兄ちゃん?大丈夫?」



余りの元気なさの俺の返事に明美は、心配そうな顔をすると、俺の左腕に絡ませた明美の腕に少し力がはいる。

俺は心配してくれる明美の頭に右手をポンと軽く乗せ撫でてあげると



「大丈夫だから」


「ニャア〜、お兄ちゃんのなでなで好き♡」


「しかし‥なんで怒った‥‥‥あああっ!」




◇◇◇




駅に向かい、怒りながらスタスタと歩く、朝日 ヒロミ(女)



『なんなのよ!なんなのよアイツは!せっかく会えたってのに!あの日から私はあなたの事思っていたのに‥‥‥』



「お姉ちゃんあああ!」


「‥‥‥(怒り)」


「お姉ちゃん、何怒っているのよ」



先に足早に歩く私に、妹の日和ひよりは、少し息を切らせながら私に追いつくと、そう言ってきた。



「怒ってなどいません!」


「どう見ても、怒ってるポイいんですけど」


「怒ってません!何!日和!」



私は余りにも、妹の日和がしつこく言って来たので、思わずきつい目をして日和を睨んだ。



「ホントにも〜う、お姉ちゃんは。そんなにあの男の人が気になるの?」


「なあ!///き、気になんて‥‥‥」


「ふう〜ん。まあ、お姉ちゃんは昔から早とちりの癖があるからね。と言うかドジっ娘?」


「誰がドジっ娘よ!誰が!」



妹の日和は私を見て、何やら少し薄ら笑いを浮かべると、私の顔に自分の顔を近づける。

けど‥今の私は他の人の話を聞く余裕?みたいなのはないんです。

彼の事で‥‥‥



「あのね〜、お姉ちゃん。お姉ちゃんは引っ越した時の挨拶回り、一緒に居なかったから知らないけど、あの男の人の横に居たのは、あの人の妹さんよ」


「えっ?日和、今なんて‥‥‥」


「だ・か・ら、あの人の隣に居た人は妹さん。確か名前は明美‥さんて言っていた‥‥‥」



この日和の言葉を聞いた時、私は、私は思った。

『穴があったらはいりたいー!』

て。


だって、彼に怒った顔をして、何も言わず彼に背を向けて‥‥‥。

もう、もうです、直ぐに引き返して彼に謝りたい。

そんな気持ちだったんですが、日和が



「あの人、私達と同じ学校だから、駅で待ち伏せしとけば。駅までの歩いている間に少しは心も落ち着くだろうし」



確かに日和の言う通りかも。

少しでも歩けば、その間に心が落ち着くかも。

彼に謝れる気持ちの準備が出来るかも。

そう思いながら私は妹の日和と足並みを揃えて、駅へと向かった。












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