合わせ鏡の向こうには‥‥‥朝日 ヒロミ(男子)

もはや定番といえば定番の都市伝説。

合わせ鏡。


深夜の2時‥‥‥

草木も眠る丑三つ時‥‥‥


合わせ鏡をすると、自分の将来の姿が映るとか、自分の将来の異性の姿が映るとか、はたまた、死神が映り魂を持っていかれるとか、地域や場所により様々。


若い者なら誰しも一度はやった経験があるのでないか。

だが実際は、合わせ鏡をしてみたが、何も起こらなかったてのがほとんど。

合わせ鏡に映るのは、自分が映し出された、らせん状に繋がる鏡の中の自分。



「そもそもさあ!深夜の2時なんて、若い奴らなら皆んな起きて遊んでいるよな!面白い番組も深夜だし」



そう言うのは、今年、高校生になったばかりの男の子


朝日 ヒロミ(15歳)


幼い頃から、女の子に間違われる事多数。

しかも名前が名前なので、初対面の人からは



「あの〜う?女性ですか?」


「プチィ!(怒り) おーれーはー、男だ!」



なんて事は頻繁だ。

しかも、中学時代の最後の文化祭の時、クラスのみんなから無理やりセーラー服を着せられて、校内を引きずり回された。



「誰だよ?」

「あんな子いたか?」

「か、かわいい///」



なんて、男子からはハートの目をむけられるわ、女子からは、あまりの可愛さに嫉妬の眼差しをむけられるわ。

しまいには、卒業式の時に男子からは告白されるわ。(女子からも告白されたが、付き合うまでとはいかなかった)


そんな朝日 ヒロミが、ヤケになり、この深夜の合わせ鏡をする事になんの躊躇することもなく、また、恐怖すらも感じなかった。



あれを見るまでは‥‥‥。



春の日の新月の日の深夜、俺は合わせ鏡をした。いや、正確にはしようとしていた。



「春の日の新月の月は、何処かの世界へと繋がる扉になると誰かがネットで書いてたな」



スマホを片手に、そう思いながら俺はゆっくりと、ゆっくりと合わせ鏡をした。

鏡には、無限に繋がるような俺の姿が映し出された鏡がいくつも鏡の中に映る。

それはまるでらせん状の様に。

俺が左右に少し動いても、鏡の中の無数に見える、らせん状に映し出された俺は、左右に動くのみ。


そんな時間が1分過ぎた頃だろうか。

俺は合わせ鏡に映る自分に、違和感を感じた。



‥‥‥何かがおかしい‥‥‥



偶然?いや、本当に偶然‥‥‥そう!偶然!

地球上の磁場、時間、空間、そして様々なものが重なりだした。そして新月も重なりだす。



そして‥‥‥



鏡の中のらせん状の様に映し出された、小さな、あの鏡の奥に映し出された小さな俺の姿の一つが‥‥‥



「嘘‥‥‥だろ?」



長い髪の姿になっていた。

それを見た瞬間、心臓が何かに貫かれたかのような感じが走る。


ガアッ、な、なんだぁ‥‥‥


次の瞬間‥‥‥


俺は‥‥‥何かに吸い込まれる様な感覚に襲われる。



「クウッ!苦しい‥‥‥」



苦しさで、目を閉じ‥‥‥



そして一瞬の苦しさから解放された俺が目を開けると‥‥‥



「‥‥‥暗い‥‥‥」



そこは暗闇だった。

最初は目だけを動かしあたりを見たが、やはり暗闇。

次に体を360度、ゆっくりと回転させて見るが、やはり暗闇。


そして‥‥‥心の底から少しづつある気持ちが湧き上がる。



ーーー恐怖ーーー



俺は握っていたスマホに無意識に力が入ると、スマホが点灯する。



「あっ!」



俺はスマホの点灯を確認しようとした時、スマホが急に白く光り出した。眩しいぐらいに光り出した。



「ま、眩しい!」



俺は目を閉じ、腕で目を覆う。

それはまるで、強力なカメラのフラッシュの様だった。

俺はその眩しさが治ると、ゆっくりと目を開けた。



‥‥‥俺の目の前には俺の腕が見える。



「腕が見えるて事は、今度は明るい場所か?」




俺は明るい場所に出たのか、先程の恐怖が薄らいでいく。

ゆっくりと腕を下げて目の前を見た‥‥‥

そこは何もない、本当に何もない、真っ白の空間。

俺はそれを見て目を丸くして、驚いた。

そして、俺の背後に何か人気ひとけの様な物を感じ振り向くと‥‥‥

俺の動きが止まる。



ーーー誰だ⁈ーーー



俺の目の前、ほんの1メートル前には髪の長い女性らしき人が立っていた。

そして、向こうも振り向きざまに俺に気づくと驚いていたのか、目を丸くして動かない。


俺は一つ深呼吸をする。

すると前に居る相手も深呼吸をする。



「「ハア〜ッ‥‥‥あなたは‥‥‥誰?」」

「「えっ⁈」」



同時に喋り、同時に驚く。

俺は自分から名乗ろうと、



「俺は、朝日 ヒロミ」

「私は、朝日 ヒロミ」


「はあ?」

「えっ?」



また同時に話し、同時に驚く。



「ちょっとまてよ!俺は朝日 ヒロミだ!」

「ちょっとまって!私は朝日 ヒロミよ!」


「へぇ?」

「はい?」



同時に話し、同時に驚く事が5分ぐらい続いただろうか。

これではラチがあかないと思い、考えた。

頭が悪いなりに考えた。

そして出たのが‥‥‥



ーーーここは別の世界ではないのか?多分、俺と目の前に居る女性との二人だけのーーー



女性の方を見ると、何かに気づいた様な顔をする。

多分それは、俺と同じ事だろうと。

だって、目の前に居るのは多分‥‥‥



「俺の女性の姿‥‥‥」

「私の男性の姿‥‥‥」



なのだから。

つまりは異世界。

二人だけが存在する異世界。

同じ"朝日 ヒロミ"という名前の男女しか存在しない異世界。



そう、そして‥‥‥

気持ちも頭の中で考えている事も同じ。

そう考える事がしっくりとくる。

名前が同じ‥‥‥同じ自分なのだから。

ただ、性別が違うだけの。



では何故、この様な事が起きたのか?

偶然が、いくつもの偶然が重なって起きたこと。



‥‥‥偶然の塊の様な物‥‥‥



そして俺はある質問をする。

今の俺が一番最初に、聞きたいありふれた質問を。



「貴女は幸せ?」


「えっ?‥‥‥多分貴方と同じ」


「えっ?‥‥‥そうか、そうだよなぁ。じゃなきゃあんなことしないよな」


「そうね」



俺たち二人はクスッと笑った。

その笑いで緊張が取れたのか、お互い色々な質問をしだし、その問いに答えあった。



そして‥‥‥改めて思った。



ーーー生まれが男子と女子との違いで、頭、いや、心の中で考えている事は、二人共一緒なんだとーーー




そして、お互いこう思えてきた。

この朝日 ヒロミの男と女が付き合うとどうなるかが。

けど‥‥‥それは叶わない夢。

生きる世界が違うから‥‥‥



けど‥‥‥なぜなんだろう?



こんなに楽しい気分になれた事はない。

こんなに話しが合う相手に会ったことはない。

こんなにも、こんなにも一緒に居たいと思った人と会った事はない。




ーーー俺たち二人はいつのまにか、お互いを意識しはじめたんだとーーー



しかし、これももう終わり。

この二人だけの世界が消え始めた。

偶然の塊の一部がなくなりだしたのだ。



「「消える前に‥‥‥この世界がなくなる前に‥‥‥」」



俺たち二人は、スマホのTELとライン、メールを交換した。

元の世界に戻っても、繋がるかわからないが‥‥‥



そして‥‥‥



俺たち二人は‥‥‥



お互いの瞳を見つめ合うと‥‥‥



いつのまにか、お互いの距離が縮まり‥‥‥



自然と唇を重ねあっていた。



世界が消える。

二人の世界が‥‥‥。

そして‥‥‥俺たちも消えだした。

抱きしめ合いながら。

そして、お互いの耳元で呟く。


「また会えたらいいね」

「また会えたらいいな」



消え出す体。けど、心の記憶は消えない。



「貴女に会えて‥‥‥」

「貴方に会えて‥‥‥」



「「‥‥‥嬉しかった。ありがとう」」



そして‥‥‥



俺たちは

私たちは



消えた‥‥‥




俺はゆっくりと目を開ける。

合わせ鏡を持つ俺が居る。

その鏡に映る俺の目からは

涙が出ていた。



ーーーまたいつか、君に会えたらーーー



手に持つスマホの画像には、笑顔の二人が写っていた。




春の日の新月に続く。



























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