合わせ鏡の向こうには‥‥‥朝日 ヒロミ(女子)
私は、幼い頃から可愛かった訳ではない。
いつ頃から可愛くなったのかもわからない。
気づいた時には、近所の人から言われるようになっていた。
(両親や親戚の人からは、赤ちゃんの時から言われていた。当たり前だけど)
「何処が可愛いのだろう?行動?それとも姿?」
そう思いながら、小学校の低学年の時は毎日の様に鏡を見ながら笑顔を映していた。
そんな私が、合わせ鏡の事を知ったのは、小学3年の時に友達から聞いた、
「夜中にね、合わせ鏡をすると知らない誰かが鏡に映るんだって!」
それを聞いた日の夜は、怖くて寝れなかったし、トイレにも行けなかった。
「だって!鏡に知らない人の姿が映るんだよ」
そういう訳で、私は中学を卒業するまでは、深夜の合わせ鏡はしなかった。
けど‥‥‥
あの日だけは違っていた。
私には彼氏と呼べる人がいた。
夏休みに入る1日前に告白されて、付き合いだしたのだが、卒業式の当日の朝に別れを告げられた。
「俺、好きな子が出来た‥‥‥同じ高校に行く彼女」
そう言う目線の先には、知った顔の女子がいた。
その子は私の友達だった。
「なぜ、私ではダメなの?」
私は彼に強く詰め寄ることができなかった。
それは彼の目を見た時、彼の目には既に私ではなく、私の友達しか映ってなかったから。
そのあと彼は一言、「ゴメン」と言って、私の前から去っていった。
私は何がどうなっているのかわからなくなり、その場に立ち尽くし、他の友達から声を掛けられ、漸く我に返ると、いきなり涙が溢れでた。
「ちょっとヒロミ!どうしたのよ!?」
私を心配する友達の前で、私は泣く事しか出来なかった。
そして‥‥‥私の中学の卒業は最悪の形で幕を下ろした。
そんな形で春休みに入った私は、ある日フッと合わせ鏡の事を思い出した。
時間も深夜2時少し前。
しかも今日は新月。
私は振られたせいで、ヤケになっていたのか、合わせ鏡をする事に恐怖は感じなかった。
そして私はスマホを手にして合わせ鏡をし‥‥‥
あれを見る‥‥‥
鏡に映された私の姿はまるで、いくつもの私が居るかの様に、らせん状に鏡に映された。
それはまるで、鏡の中に吸い込まれそうになる感じ。
そう思っていた時、私は違和感を感じた。
「あれ?」
そして‥‥‥
私は違和感の原因に気づく。
「な、なんで!私あんなに髪短くない!」
鏡に映された、らせん状にいくつもの私が映っていた鏡の中の一つが、まるで違う髪型の人が映っていた。
私は恐怖に包まれそうになった時、
私の心臓に何かが貫いた感じがした。
「あっ!く、苦しい‥‥‥」
私は余りの苦しさに目を閉じた。
そしてその時、何かに吸い込まれる様な感じがした‥‥‥
そして一瞬の苦しさから解放された私が目を開けると‥‥‥
「‥‥‥暗い‥‥‥」
そこは暗闇だった。
最初は目だけを動かしあたりを見たが、やはり暗闇。
次に体を360度、ゆっくりと回転させて見るが、やはり暗闇。
そして‥‥‥心の底から少しづつある気持ちが湧き上がる。
ーーー恐怖ーーー
私は握っていたスマホに無意識に力が入ると、スマホが点灯する。
「あっ!」
私のスマホが急に白く光り出した。眩しいぐらいに光り出した。
「ま、眩しい!」
私は目を閉じ、腕で目を覆う。
それはまるで、強力なカメラのフラッシュの様だった。
私はその眩しさが治ると、ゆっくりと目を開けた。
‥‥‥私の目の前には私の腕が見える。
「腕が見えるて事は、今度は明るい場所なの?」
明るい場所に出たのか、先程の恐怖が薄らいでいく。
ゆっくりと腕を下げて目の前を見た‥‥‥
そこは何もない、本当に何もない、真っ白の空間。
私はそれを見て目を丸くして、驚いた。
そして、私の背後に何か
私の動きが止まる。
ーーーだ、誰⁈ーーー
私の目の前、ほんの1メートル前には私より髪の短い男性らしき人が立っていた。
そして、向こうも振り向きざまに私に気づくと驚いていたのか、目を丸くして動かない。
私は一つ深呼吸をする。
すると前に居る相手も深呼吸をする。
「「ハア〜ッ‥‥‥あなたは‥‥‥誰?」」
「「えっ⁈」」
同時に喋り、同時に驚く。
私は自分から名乗ろうと、
「私は、朝日 ヒロミ」
「俺は、朝日 ヒロミ」
「えっ?」
「はあ?」
また同時に話し、同時に驚く。
「ちょっとまって!私は朝日 ヒロミよ!」
「ちょっとまてよ!俺は朝日 ヒロミだ!」
「はい?」
「へえ?」
同時に話し、同時に驚く事が5分ぐらい続いただろうか。
これではラチがあかないと思い、考えた。
頭が悪いなりに考えた。
そして出たのが‥‥‥
ーーーここは別の世界ではないのか?多分、私の目の前に居る男性との二人だけのーーー
男性の方を見ると、何かに気づいた様な顔をする。
多分それは、私と同じ事だろうと。
だって、目の前に居るのは多分‥‥‥
「私の男性の姿‥‥‥」
「俺の女性の姿‥‥‥」
なのだから。
つまりは異世界。
二人だけが存在する異世界。
同じ"朝日 ヒロミ"という名前の男女しか存在しない異世界。
そう、そして‥‥‥
気持ちも頭の中で考えている事も同じ。
そう考える事がしっくりとくる。
名前が同じ‥‥‥同じ自分なのだから。
ただ、性別が違うだけの。
では何故、この様な事が起きたのか?
偶然が、いくつもの偶然が重なって起きたこと。
‥‥‥偶然の塊の様な物‥‥‥
そして男性は私にある質問をする。
その語りは妙に優しく感じた。
「貴女は幸せ?」
「えっ?‥‥‥多分貴方と同じ」
「えっ?‥‥‥そうか、そうだよなぁ。じゃなきゃあんなことしないよな」
「そうね」
私たち二人はクスッと笑った。
その笑いで緊張が取れたのか、お互い色々な質問をしだし、その問いに答えあった。
そして‥‥‥改めて思った。
ーーー生まれが女子と男子との違いで、頭、いや、心の中で考えている事は、二人共一緒なんだとーーー
そして、お互いこう思えてきた。
この朝日 ヒロミの女と男が付き合うとどうなるかが。
けど‥‥‥それは叶わない夢。
生きる世界が違うから‥‥‥
けど‥‥‥なぜなんだろう?
こんなに楽しい気分になれた事はない。
こんなに話しが合う相手に会ったことはない。
こんなにも、こんなにも一緒に居たいと思った人と会った事はない。
ーーー私たち二人はいつのまにか、お互いを意識しはじめたんだとーーー
しかし、これももう終わり。
この二人だけの世界が消え始めた。
偶然の塊の一部がなくなりだしたのだ。
「「消える前に‥‥‥この世界がなくなる前に‥‥‥」」
私たち二人は、スマホのTELとライン、メールを交換した。
元の世界に戻っても、繋がるかわからないけど‥‥‥
そして‥‥‥
私たち二人は‥‥‥
お互いの瞳を見つめ合うと‥‥‥
いつのまにか、お互いの距離が縮まり‥‥‥
自然と唇を重ねあっていた。
世界が消える。
二人の世界が‥‥‥。
そして‥‥‥私たちも消えだした。
抱きしめ合いながら。
そして、お互いの耳元で呟く。
「また会えたらいいね」
「また会えたらいいな」
消え出す体。けど、心の記憶は消えない。
「貴方に会えて‥‥‥」
「貴女に会えて‥‥‥」
「「‥‥‥嬉しかった。ありがとう」」
そして‥‥‥
私たちは
俺たちは
消えた‥‥‥
私はゆっくりと目を開ける。
合わせ鏡を持つ私が居る。
その鏡に映る私の目からは
涙が出ていた。
ーーーまたいつか、あなたに会えたらーーー
手に持つ私のスマホの画像には、笑顔の二人が写っていた。
春の日の新月に続く。
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