第9話【確信】

男性が以前、新大阪の駅で出会った人

なのかを知りたかった私は男性の

「少し話しませんか?」

という言葉について行くことにした。

"老人のユートピア"という謎の言葉の

答えが聞けるのかと思ったが

自分が何と言って声をかけてきたのかは

既に覚えていないらしい。


二人でベンチに腰を降ろした瞬間から

脳で考えることを拒否するように

次々と話題を変えて一人でビールを

飲みながら話し続ける男性に

私は少し興味を抱くようになっていた。


男性が楽しそうな表情で話をしている間、

顔を見て思い出そうとしてみるが

あの時はスーツを着ていた為か

正直よくわからない。

しかし、声にはやはり聞き覚えが

あるような気がしている。


突然話が止まったと思い顔を見てみると

まっすぐにこちらを見つめて


「もしかして数年前に新大阪の駅で

会っていませんか?」


と真剣な顔で尋ねてきた。


その言葉を聞いて私の疑問は確信に変わる。

あーやっぱりあの人だったのだ。

こんなことがあるのだろうか?

突然休みを言い渡され、思い付きで

やってきたこの北国で今日の昼間に

何故か思い出していた男性に出会う。


『やはりそうだったんですね。』


私は可笑しくなってきてこの日初めて

笑いながら男性に言葉を返した。


私の言葉を聞いた男性は

今までより更に興奮した様子で


「やっぱりクールbabyだ!!!」


と訳のわからない言葉を連発しながら

私の両手を嬉しそうに握っている。

どうやら過去に一度だけ会った私に

そのような訳のわからないあだ名をつけて

勝手に呼んでいたらしい。

しかし、一度しか会ったこともない

私の事を心の中でたまにでも思い出して

くれていたことを少し嬉しくも思った。


話しながら飲んでいた男性のビールが

無くなるのを見届けると私は


「もう少し一緒に飲みましょうか?」


と買いに行くことを提案し閉店準備を

始めている売店に駆け込むと缶ビールを

二本ずつ買ってきた。

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