第7話【記憶の糸】

聞いていた通り、ロープウェイは

5分とかからずに山頂に到着した。

人の流れに乗って展望台のほうへと向かう。

とりあえず運転手が連呼していた

夜景とやらを見てやろう。

大好きな音楽を聴きながら

何も考えずに歩いていると突然


「トントン」と肩を叩かれた。


こんなところに知り合いなど

いるはずもない。

驚いて振り向いてみると男性が

立っていて何やら口を動かしている。

(あれ?この人…?)

イヤホンを片方だけ外して黙ったまま

その男性の顔を凝視する。

どこかで見たことがあるような気がした。

じっと見つめたまま記憶の糸を辿り、

男性が次の言葉を発するのを待つ。


「道に迷って困っているのですが」


その言葉に聞き覚えがあるような気がした。

そうだ、まだ確信は持てないが新大阪の

駅で道を尋ねてきたあの男性に似ている。

私はとりあえず


『どちらに行かれるのですか?』

と当たり障りのない返事をすることにした。


「長野の山奥で老人の

ユートピアを探していまして」


男性はそう言うと手で口を抑え

自分で言った言葉に笑いを堪えきれない

様子の顔で私の目を見つめてきた。


(はい?ユートピアって何?

ここ北海道だよ?)


と心の中で突っ込みながら


『ここは北海道ですよ?』

と返してみることにする。


突然訳のわからないことを言ってきた

この男性が、次に何を言ってくるのか

聞いてみたくなったのだ。

私は男性の背後のロープウェイ降り場を

見ながら、この不思議な再会?を思い

お喋りなタクシーの運転手に

少しだけ感謝をした。

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