第4話【グランクラス】

AM4:50、まだ太陽の光の届かない

最後の星が輝く夜空の下。


あ!そうだ大阪へ行こう!


昨日の仕事終わりに、鉄道会社の旅行の

パンフレットのような文言を

突然思い付いた俺は、東京駅へと向かう

始発電車に乗り込む。


東京駅の新幹線乗り場はいつ来ても凄い。

以西へと向かう白の新幹線だけではなく

赤や緑、個性的な色を持つ様々な

車体が一堂に介する場所なのだ。

近くで見たくなった俺は

東北、北陸新幹線方面乗り場の

入場券を買い、見に行くことにした。

どうせ大阪に急ぎの用事が

あるわけではない。


東海道山陽線ではない、新幹線乗り場へと

見学にやってきた俺は近くで見る、

"はやぶさ"や"こまち"、"かがやき"に"つばさ"

日本が世界に誇る最高に格好いい車体達を

前に本来の目的も忘れ、写真を撮りまくる。


(ヤバい、中が見たい…。)


我慢できなくなった俺は、目の前にいた

停車中のはやぶさの出発時刻を

電光掲示板で確認すると少しだけ

中を覗かせてもらうことにした。


(これが噂に聞くグランクラスか…)


シートが別格な上に軽食サービスや

アルコール類を含むフリードリンクまで

ついているというグランクラス。

偶然入った車両がそれだったことが

俺の運命を変える。


なんだこの気持ちのよさそうな電車は!!

誰も客のいない最高級の車内を1人

歩き回っていると車内アナウンスが

流れ始める。始発の"はやぶさ"はどうやら

北の大地、北海道を目指すらしい。


(北海道か…)


違うホームに見える、白い新幹線が


( 私に乗りにきたんでしょ?)


と俺のことを見ている気がする。


しかしすぐ隣には、エメラルドのように

光輝く最高級の客室をもつ日本最速の

新幹線。


( ……ゴメン、のぞみ!!

今日俺は、お前には乗れない…。)


白い新幹線に心の中で謝ると

発車時刻の迫った、北海道行き

"はやぶさ"グランクラスの乗車券を

買いに戻り行き先を大阪から

北海道へと変更したのであった。


初めて乗る快適なグランクラスの車内で

軽食をつまみに朝だというのに

無料のビールを飲みまくり、

四時間ちょっとの上流階級気分は

あっという間に終わってしまった。

呆気なく、新函館北斗駅に置き去りに

された俺は何も考えずにここまで

きてしまったことを思い出した。


持ってきたお気に入りのリュックには、

スマホの充電器となぜかイチゴの

チョコレートが入っている。

これだけの荷物でよくここまできたなと

思いながら駅の観光案内を眺める。


初めての函館。

案内を見ながら俺の脳裏をよぎったのは、

初めて新大阪駅に降り立った時の

ことだった。

あの日声をかけた女性の

冷たい視線を思い出す。

一度しか会ったことのない彼女のことを

思い出す度に、俺は勝手にこう呼んでいた。


"クールbaby!"


彼女にピッタリな、アダ名だ!

何がぴったりなのかはわからないし

きっと彼女に聞かれたら怒られるだろう

などと考えながらレストラン街の

案内前へと移動する。

時刻はお昼時少し前、グランクラスを

満喫した俺に昼食は必要なさそうだったが

酔い冷ましの為に喫茶店へ入ることにした。


運ばれてきた珈琲を飲みながら

函館についてスマホで検索する。

やはり函館といえば夜景みたいだ。


よし、函館山から夜景をみよう。

ネットのお勧めにそのまま従うのは

気に入らないが、今日俺は本来

大阪にいるはずだったのだ。

"のぞみ"を捨て"はやぶさ"に

乗り換えてしまった俺が悪い。


日没から夜景の時間帯は込み合う

という函館山からの案内を見て

少し早めに登ることにした。


ここから在来線に乗り換えて

函館駅まで移動する。駅前に到着すると

冬季期間は運行を取り止めている

山頂行きの登山バスが昨日から運行を

再開している様子で行列ができている。

ロープウェイでは5分かからずに

到着するみたいだし、時間のある俺は

市内を周遊してから山頂へと

向かってくれるらしいバスへと

乗ることにした。

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