第3話 【休暇】

私はいつもイヤホンをして

音楽を聴いている。

街中の騒音、耳障りな知らない人の

話し声なんて聴きたくもないから。


今日も仕事で新大阪の駅に向かう。

いつもの場所で音楽を聴いていると

数年前のある出来事を思い出した。


マスクで顔を隠し、イヤホンで耳をふさぎ

下をむいているにも関わらず

私に道を訪ねてきた男性のことだ。

まず私ならイヤホンをしている人間には

絶対に話しかけたりしない。

どうしても分からない場合は

駅員さんに聞くか、駅の売店などで

人の良さそうなおばちゃんを捕まえる。

確実に第一声が相手に届かないことは

目に見えてわかっているのに

何故その相手を選ぶ必要があるのだろう。


その姿を見ただけで人との関わりを

拒絶しているようにみえるであろう

私に何故あの時の男性はわざわざ

道を尋ねたのか。

大きく口を開けて、パクパクしていたので

後でイヤホンに気づいたのかもしれないが

それでも、この人はどういう神経をして

いるのだろうか?と不思議に思ったこと。

何故かそんな昔のことを考えながら

いつもの業務をこなす1日だった。


仕事が終わり上司に呼び出された私は

貯まっていた有給消化の為、明日から

一週間休んでほしいということを

唐突に告げられた。

1日の突然の休みは嬉しいものだが

いつでも遊んでくれる沢山の友達や

彼氏がいるわけでもない私にとって、

急に言われる長期の休みほど

困るものはない。別に1人で何かを

するのが嫌いなわけではないが

一週間も1人と考えると少し寂しい。

私は不機嫌な顔で上司に挨拶をすると

そのまま職場を後にした。


突然の一週間の休み

一週間あったら何ができるだろう?

家に帰るとダラダラとビールを飲み続け

何もせずに無駄な時間を過ごして

しまいそうな自分を想像し、家には

帰らないことにした。


今年の冬は驚くほどの暖冬で雪を

全く見ていないということを思いだす。

私は近くにあった喫茶店に入り

珈琲を飲みながら、北方面へ向かう

飛行機のチケットを探してみることにした。

運良く三時間後に伊丹空港から函館空港に

出発する便が空いておりそれに

乗ることにした私は、誰にも行き先を

告げずスマホと財布だけが入った

バックを持ち伊丹空港へと急いだ。

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