第2話【出会い】

俺が初めて彼女に出会ったのは、

仕事の為訪れた新大阪駅の構内。

初めて降りた大阪の地は、

何もかもが未知の世界だった。

新幹線を降り、人の流れにのって改札へと

向かう。ここまではいいのだが、丁寧に

書いてあるつもりであろうJR在来線の

行き先看板に俺は惑わされることとなる。

梅田に向かいたい俺は、梅田という文字を

探してみたが全く見当たらないのだ。

(後に仕事先で聞いて地下鉄梅田駅のことを

JRでは大阪駅というのだと理解したが

初めてきたのにそんな事知るはずがない。)


途方にくれた俺は、近くにいた

一人の女性に声を掛けた。

ニット帽をかぶり、マスクをしていたが

荷物が少なく、柱にもたれスマホを

いじっていることから旅行客ではないと

判断したからだ。


「すみません!梅田に行くには

どの電車に乗ったらいいでしょうか?」


イヤホンをしていた女性は人の気配に

顔をあげ、突然表れた男に困惑の表情を

浮かべている。


彼女がイヤホンをしていたことを

見落としていた俺は

「す・み・ま・せ・ん!」

と口を大きくあけてアピールした。


ようやくイヤホンを外してくれた彼女は

『何でしょうか?』と聞いてくれた。

思っていたより低めだが、特徴のある

可愛い声をしている。


「いきなりごめんなさい!

梅田への行き方を知りたいのですが。」


いったいどんな音楽を聴いているのかな?

まさかの落語?そりゃないな、などと

くだらないことを考えながら俺は

もう一度梅田への行き方を尋ねる。


女性は少し考えて

『梅田駅なら、JRではなく

地下鉄に乗ってください』

とだけ答え、遠くの看板を指差した。


たったこれだけの出来事。

見知らぬ土地で道を聞くことなど

よくあることなのに、俺好みの声だった

所為なのか、帽子とマスクの間に見える

物憂げな目に見つめられた所為なのかは

わからないが何故かこの女性の

ことが一日中頭から離れなかった。

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