嫌いな人に贈る猫

エリー.ファー

嫌いな人に贈る猫

 猫には幾つが種類があります。

 可愛い猫。

 可愛くない猫。

 嫌いな人に贈る猫。

 この三種ですね。

 簡単です。

 直ぐに覚えられますね。

 さて、ここから先の話になりますと。

 そもそも、このような猫の開発に着手したラディオネルステアドアセヴェントリデセルフォーグルドヴォシュドアナバンスビオネルデトアールは、元々猫に対して余り良い感情を持っていなかったと言います。子どもの頃に猫に引っかかれたことがあるとか、幼稚園のお遊戯会で猫の真似をして友達に笑われたとか。それらの情報が積もりに積もってはいますが、真偽のほどは定かではありません。

 ただ、明らかなのは、かれは間違いなく猫に対して憎しみに近いものをもって入り、それを具現化することが、人生の目的となっている時期が間違いなくあった、ということです。

 結婚の破談を二度ほど乗り越えた彼の精神がかなり弱っていたことからも分かる通り、研究の進捗速度はより増していくことになります。元々自国の軍事産業への技術の提供からも非常に注目されていたことは間違いがなく、彼の研究の資金は無尽蔵に補給されていたと考えるのが自然でしょう。

 当時の軍事ジャーナリスト、サグラダが語る内容によれば、これほど軍というものを嫌悪しながらその軍の発展に寄与した人間はいないだろう。凡そまともではない発想から成る兵器軍の確立は、彼なしでは実現不可能であったし、そのことを彼自身も分かっていた。できるかぎり多くの報酬を受け取ろうとする貪欲さも、軍の上層部からは非常に気に入られており、別件で他国との会食に同席させられるなど異例尽くしの対応を受けていた。他の研究者や軍人からは嫉妬や羨望のまなざし、それこそ邪魔をされることもあったそうだが、どこ吹く風で自身の研究に没頭していた。仲間も特に作らず、派閥も作らない。その上誰かを羨むこともなければ陰口の一つも言わない。それが彼の人生の全てであるように見えた。女遊びも少々していたようだが、決して上手かったというわけではないそうだ。実際、惚れ薬の開発にいそしんでいたこともあるようだし、そちらの方は苦労していたのではないだろうか。

 詳細について語られている部分としては、このサグラダのインタビューが最も適切であるが、これにもラディオネルステアドアセヴェントリデセルフォーグルドヴォシュドアナバンスビオネルデトアールの手が入っていないとは言えず、信憑性がそこまで高くないことは言うに及ばない。

 嫌いな人に贈る猫を作りあげる、もしくは生まれさせる、完成させる研究は四十年の歳月がかかったと言われている。それは、天才の彼を持ってしても、定義をどの部分に持ってくるかなどの難点が多く、着手の仕方の一つをとってもまともに研究していては一生分の時間があったとしても間に合うものではなかった。

 これでスライドは終了となるが。

 このように、嫌いな人に贈る猫の開発は彼の夢であり、人類の夢である。

 回覧板を回さない、ゴミの出し方に文句をつけてくる、食べ方が汚いなどの、隣人に対して自分の感情を的確に伝えるためにもこの研究は急務である。

 嫌いな人に贈る猫、それに関係する文化と、猫の開発、安定供給のために全力を尽くしてほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嫌いな人に贈る猫 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ