第35話 普通は出ないよな

ゴブリンビショップが倒れていた所には、キング程の大きさでは無いが綺麗な透明度の高い魔石が転がっていた。


そして、王座の前に光の粒子が輝き始める。その輝きが収まると、そこには金色の宝箱が鎮座していた。


「おぅ! 金色の宝箱。初めて拝むな」


俺は胸に期待を膨らませて、金色に輝く宝箱へと近付いた。


「さて、何が出て来るかな???」


一応、罠が無いか調べた上で、俺は宝箱の鍵を解錠して蓋を開けた。


キュイッ!


「はっ! ???」


キュイッ..キュイッ‼


「えっ! ???」


俺は、そ~と宝箱の蓋を閉めた。


「このまま、知らん顔して立ち去ろうかな」


俺がそう意識した瞬間、宝箱の蓋が爆ぜて中にいた生き物が俺めがけて飛びついて来た。


うげっ!


肺から一気に空気が押し出されて、更にお腹からは出てはいけない物が飛び出そうになった。


その衝撃を何とか耐え凌いで、飛びついて来た奴の首根っこを捕まえて身体から引き離すと睨み付けてやった。


「痛かっただろうが、この野郎!」


キュイッ???


「そんなキュートな目で見つめるな。もう、しようがないなぁ。連れて行くしか無いか」


悪びれた様子もなく、俺に飛びついて来たのは白龍の幼体だった。

普通、宝箱から龍は出て来ないだろう。


俺は、白龍の幼体を懐に入れると王座の後ろにある扉を開けて、転移用の魔法陣に乗っかった。


そして、迷宮の外へと戻って来た俺は、取り敢えず支部長の所へ顔を出すことにした。



迷宮のギルド支部のウエスタンドアを開けて中に入ると、真っ直ぐ進みナディアさんの受付窓口に並んだ。


順番が回って来たところで、俺は懐に居る白龍の幼体を周りからは見えないようにして、ナディアさんに見せた。


すると、一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、物が白龍の幼体だと判るといつもの調子で話しかけてきた。


「お帰りなさい、創作さん。今日の迷宮はどうでしたか」

「何とか10階層まで行くことが出来ました」


「そうですか。その辺の事をお聞きしたいのでこちらへどうぞ」


話の分かる受付嬢で助かる。


コンコン!


「支部長、いまよろしいでしょうか」


「おぅ、いいぞ。入ってくれ」


支部長の返事を聞き、扉を開け中に入ったナディアさんに続いて俺も部屋の中へと入った。


「なんだ、創作か。昨日の今日でどうしたんだ。結果が出るのはもう少し後だぞ」


「いやぁ、今日は...こいつなんですが」


俺は懐から白龍の幼体を出すと、支部長の目の前のテーブルへと置いた。


キュイッ!


ぐはっ!


支部長が、鼻血を出して仰け反った。


キュイッ...キュイッ!


いや~ン!


ナディアさんも、殺られてしまったようだ。


こいつも、業とらしくキュートに振舞っているので質が悪い。


二人が回復するまで、俺は白龍の幼体を懐に戻しておいた。



「創作。それで、どういう事なんだ」


正気に戻った支部長に、俺はその時の状況を説明していく。


「なるほどなぁ。それも初めての事例だな」


その時......。


「はっ! 赤ちゃんはどこですか~」と声を発して、ナディアさんが復活を遂げた。


「落ち着け、ナディア」


支部長がナディアさんの事を窘める。


「済みません。取り乱しました」


その後、三人で取り扱いを話し合ったのだが、白龍の魔力パスが俺と結ばれてしまっているので、俺が面倒を見ることに決まった。


そして、宿に戻る為にギルド支部を出る際、ナディアさんから毎日連れて来て下さいねと嘆願されてしまった。

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