第32話 迷宮での出逢い

つい先日、俺はゴールドランクへと昇級してしまった訳だが、そこにはメリットがあった。

それは、ゴールドランクからは単独での迷宮探索を行えると云う特典だったのだ。


その事をエミリーさんから聞かされた時、俺はサンバを直ぐにでも踊り出したいぐらいに気持ちが高揚してしまった。


オーレ..オレ..オレ~..(^^♪


単独での迷宮探索が許されるのなら、封印しているチートな能力を解放して探索を行う事が出来ると言うことだからだ。



二日後......。

俺は、エバートンの街から一番近い迷宮へと足を運んで来ていた。


この迷宮は50階層で出来ているらしく、騎士団も魔物との戦闘訓練に使用しているらしい。


そして、この迷宮は下層の方に行けば行くほど魔物が強化されていき、単独での踏破は不可能と言われている迷宮らしい。


そんな迷宮が、街の近くにあっても良いのかと思うが、そこは異世界仕様でOKなのだろう。



午前9時......。

俺は、この世界に来て初めての迷宮探索へと単独で向かった。


迷宮の受付窓口で聞いた話によると、30階層まではそこそこの強さで、それ以降からは急激に強くなるらしい。


なので、迷宮探索初心者の俺はのんびりと進むことに決めていた。


それは以前、森の中で出会ったティナみたいに罠に掛かって知らない場所に飛ばされてしまうのも困るからだ。


今回は、10階層を目標に頑張ってみようと思う。


そして、迷宮入口を抜けてスロープを降りて行った。

しかし、1~3階層までは下級の冒険者で溢れていたのでスルーして、俺は4階層までそのまま降りてきた。


「ここの階層からは、急に人の気配が少なくなるな。

仲間は居ないから、魔物の不意打ちを喰らわないように慎重に行こう」


試しに迷宮の中で探索魔法を使ってみたが、自分を中心に半径25m迄しか探知する事が出来なかった。


何らかの形で、迷宮により規制が掛かっているようだ。


俺は自分が分かりやすいように、3階層からの階段があった場所から時計回りに探索を始める。


最初に遭遇したのは、ゴブリンのルーク3体だった。


「ゴブリンのルーク3体か。 迷宮仕様で強化されているのかな?」


先ずは、小手調べにミドルソードで戦ってみる事にした。

ロングソードだと壁や天井を気にしながらになるので、動きを制限されてしまうからだ。


ミドルソードに風魔法のカッターを付与する事は忘れない。



俺の事を認識したルークの1体が、棍棒を振り回しながら突撃してきた。


先ずは、横に回避しておく。


すると、勢いそのままにルークは棍棒を地面へと振り下ろした。


そして、ドゴッ!と、結構な重い音が迷宮の狭い通路に響いた。


「おぅ!」


俺は、その重い音に思わず声が出てしまった。


地面の凹み具合と音からして、野良のゴブリンの1.5倍は強化されているようだ。


そう判断した俺は、気を引き締め直して3体のゴブリンと対峙する事にした。



30分後、初戦闘を終えた俺は通路の壁に背中を預け呟いた。


「いやぁ、屋外と違って通路の中の戦闘は消耗が激しいな」


戦闘を行ってみた結果の素直な俺の感想だ。


「さて、少しは狭い所での戦闘を理解することが出来たから、先に進んでみるかな」



その後は5階層から6階層と順調に進んで、7階層へと降りて半周ほど攻略を進めている時だった。


キャーッ!と言う、女性の声が通路の前方から響いて来た。


俺は急いで、その声のした方へと駆け出した。


そして、そこに居たのは探索中の冒険者達を捕まえて引き裂いているゴブリンキングだった。


「おいおい、本気か!」


こんな所で出会う魔物ではない筈だが。


離れた場所に居る女性の傍まで行くと、この惨劇の状況を聞く事にした。


「おい、どうしてこうなった」


俺の質問に答えられる雰囲気ではない女性。


一応、冒険者の装備は身に纏っているので、俺は遠慮せずに頬を引っ張叩いた。


バチィ~ン!


俺に頬を叩かれて、我に返った女性は......。


俺の顔を見て「あそこの隠し部屋の扉を開けたら突然現れたの」と訴えてきた。

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