第15話 一筋縄ではいかぬ

“幻の魚を捕まえて下さい”


今思うと、簡単に捕まえられるだろと高を括っていた俺の考えが浅はかだった。


釣竿と餌は指定されていた物を用意して昼前から何度も糸を湖面に垂らして魚を誘うのだが、魚影は確認できても当たりは一つもこなかったからだ。


この湖の魚は擦れている。


そう確信した俺は対策を講じて、明日こそは捕まえてみせるぞと意気込んだ。


そして夕陽が地平線に沈みそうな中、急いで野営の準備を終わらせると夜食の支度に取り掛かった。



翌朝......。

テントから起き出した俺の手には、昨夜寝る前に製作して準備しておいた釣竿とリール、そして疑似餌のルアー(虹色)が握られていた。


擦れた魚には、最新鋭の装備で挑むのが一番だ。


“昨日のボウズの恨みを絶対に晴らす!”


とまぁ~、この勢いのまま早速釣りに行きたいところだが、朝飯はしっかりと食べてから戦いに挑もうと思う俺だった。



午前9時過ぎ、昨日とは違うポイントへとやって来た。


この湖の湖水は透明度が高いので魚影がしっかりと見えている、なのでルアーを投下する場所は決めやすいのだ。


俺の狙っている魚は鱗の色が薄い紅色をしている魚体なので、釣れた段階で見分けることは比較的楽だと思っている。


“さぁ~て、では釣り始めますかね” と、独り言ちる。



あれから3時間、時刻は昼時になりお腹も空いてきたが......。


ここまでの釣果は、所謂ブラックバスとブルーギルにピラニアがメインで下郎ばっかりだった。


目的の薄い紅色の魚体は一匹もルアーに掛ってくれなかった。


何かが足りないのは分かる、その何かが問題だ???


取り敢えず、ルアーの形状や色の違う物を試作して釣果があるか試してみたが、それでもまだ薄い紅色の魚体を拝むことは出来なかった。


結局この日も、俺は目的の魚を釣り上げる事は叶わなかったのだ。



夜、テントの中で俺は釣り好きな上司が一人居たことを思い出していた。

その上司は色々なルアーをケースに整然と入れていて、釣りに行くなら教えてやるからと、どのルアーでどんな魚を釣ることが出来るかを俺に事細かく説明をしてくれていた。


そして、思い出したのだルアーで釣れない魚も居ることを。


そこで、記憶だけが頼りだがテンカラ毛鉤を造ることにした。


そう、フライフィッシングで使う釣り針の事だ。


同じ様な疑似餌ではあるが、これは水面近くを飛び交う小さな昆虫を想定している物だ。


慣れない細かい作業で夜遅くまで掛ったが、何とか5針を作ることが出来た。



明日こそは! と、念じながら毛布に包まると目を閉じた。

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