第12話 可愛いぃ依頼主

この一週間、完全覚醒体の獣は現れないかと森の中へ入っていたが現れる事は

無かった。


早々は、完全覚醒体の獣は生まれて来ないのかも知れない。


仕方がなく、俺はギルドに目ぼしい依頼がないかと探しにやって来た。


「あっ、創作さん。 こちらに来て下さい」


俺が掲示板のところで依頼票を眺めていると、受付カウンターの方から名前を

呼ばれた。


受付嬢から1Fホールに響くぐらいの声で呼ばれた為、俺も無視する訳にもいか

ず呼ばれた受付カウンターの方へと足を向けた。


「如何したんですか、急に声を掛けてきて。 ビックリ!ですよ」


「済みません。 久し振りに姿を見たものですから」


「それで、何かあったんですか?」


「あっ、そうです。

依頼です、創作さんに指名で...。 今朝、依頼されたので丁度良かったです」


「えっ、俺に指名で依頼ですか?」


「はい。 創作さんは、この間のキタキツネの姉妹を覚えていますか...」


「えぇ、最初の依頼でしたから覚えていますよ」


依頼の内容を受付嬢から聞くと、隣街に住む両親の所まで安全に行きたいので

護衛をして欲しいとの事だった。


依頼内容としては断る案件でもないので、俺は了承のサインをしておいた。



二日後......。


ギルドの入口で待っていると、キタキツネの姉妹が手をつないで元気よく俺の

所へと駆けて来た。


「お待たせしました」


「楓音に夏梨ちゃんだったな。 よろしくな、じゃぁ出発するか」


挨拶を交わすと、二人は俺がギルドで借りた馬車に乗り込んだ。


それを確認した俺は、御者台に乗り込み手綱を手にすると馬に動くように合図

をした。


隣街まで、七日間の旅の始まりだ。



旅は...一日目、二日目と順調に進んでいる。


そして、三日目の野営地では珍しく隊列を組んだ商人達と一緒になった。


こういう時に限って、盗賊団が現れたりするんだよな。

だから、旅の途中では商人達の隊列にはなるべくなら遭遇はしたくないのだ。


「楓音に夏梨ちゃん、今夜は盗賊団の急な襲撃があるかも知れないから、気を

抜かないように頼むな」


「「はい、気を付けます」」


元気よく返事を返してくれたが、まだ子供だからな俺の方でしっかりと気を

付けておかないとな。



夕食の後片付け済ませて、二人を先に馬車の中で休ませる。

俺は見張り役として、馬車の横で焚火に当りながら本を読む振りをしていた。

そしてその間は、盗賊団の動きを察知出来るように、広範囲の探査魔法を使って

警戒していた。


「あっ、やっぱり来やがった」


商人達の方にはそれなりの数の、護衛の冒険者達が就いて居るので大丈夫だろう

が、こちらは俺一人なのでここはズルをさせてもらった。


所謂、認識阻害の魔法と幻影魔法を掛け合わせて、二人の寝ている馬車をステルス状態としたのだ。


魔力感知を出来る奴が盗賊の中に居なければ、このやり方でやり過ごせるだろう。



その後、直ぐに......。


矢じりに火を纏った矢が商隊の方へと飛んで行く。

こちらの馬車は、案の定認知はされていない様だった。


さて、俺はおれで動きますかね。


探索魔法を精密モードに切り替えて、盗賊だけに絞ってマーカーで一人一人に印を

付与していく。

但し、全員に付ける必要はないので、俺の方へと向かってくる奴だけにする。


俺は、盗賊の気を引く為に商隊の方へと近付き過ぎないように移動した。


それでも、俺のことを商隊の護衛と勘違いした盗賊が十数名襲い掛かって来た。


もう既にマーカーは付与済なので、あっさりとあの世に送っても良いのだが、

戦闘シーンを少しは見せておかないと、後々の説明が面倒臭くなるので仕方なく

ロングソードを片手に戦っておいた。


盗賊達よ、片手間のようで申し訳ないな。


俺は、姉妹を寝かせている馬車から時間的に余り離れていたくはなかったので

2、3人切り捨てたところで、魔法で氷の矢を生成するとマーカーを目標にして

一気に打ち込んだ。


ガァッ...


言葉にならない声を発して、残りの盗賊達は全て死を迎えた。

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