第9話 検証は現場で

翌日......。


宿の部屋でグダグダしていても始まらないので、俺は冒険者ギルドへと行って

見る事にした。


ウエスタンドアを開け、受付嬢の所へと向かう。

ギルドの建物の中の様子は、俺の想像していた通りで少なからず安心した。


先ず、ここではブロンズカードを提示しておく。


「創作さん、随分とご無沙汰でしたね」


「そうかな。 そうでも無いと思うけど...」


ここは、曖昧に答えて置く。


「だって、5年ですよ。 5年‼」


「あれ、そんなになるのか」


こりゃ、驚いた。 そういう事になっているのか。


もしかして、ブロンズカードを出したからシナリオの初期の頃に戻った事に

なったのか。


これは、他のカードでも確認する必要が出て来たかも知れないな。


「本日は、何か依頼を受けて行きますか」


「いや、顔を見せに来ただけだから」


俺は受付嬢に、そう言うと一旦ギルドから宿へと戻った。



次の日から、毎日残りのカードの種類の分だけ検証を続けた結果...。

ものの見事に、カードを取得した時の設定に戻っていた。


どうしたものか...。


第3章までは、俺が投稿したそのままのストーリーで進んでいくのか。

それとも、何かしらで違うカードを提示した処で時系列が変わってしまうのか。


折角、この世界にやって来た訳だし、俺は時系列が変化する事を楽しみにして

ブロンズカードから冒険を始めることに決めた。


ただ、何かの時にズルはするかもしれないが、とだけ言っておこう。



6日後......。 再び、冒険者ギルドへとやって来た。


この日、俺は最初からブロンズカードを懐に入れておいた。


「こんにちは創作さん。 何か依頼を受けますか?」


俺は、先に依頼掲示板に貼られていた依頼票を剝がして持っていたので、

それを受付嬢にギルドカードと一緒に提示する。


「これを、お願いします」


「はい、キタキツネの保護ですね。 了解しました」


直ぐに依頼の受注が完了する。


俺は依頼票を受付嬢から受け取るとギルドを後にして、街から出ると森の方へと

向かった。


さて、第1章・第1部の冒険の始まりだ。


どんな展開になっていくのか、凄く楽しみだ。



街から離れて2時間ほど掛かり、森の入口へと到着した。


勿論、徒歩での移動だ。


依頼票では、昨日の昼間、薬草取りをしていて逸れてしまったので探して欲しい

と書いてある。


この森には、人を襲うよな大型の獣は居ない筈だから、大丈夫だとは思うが??


俺は一応、ロングソードを片手に森の中へと足を踏み入れた。



森の入口から小道を真っ直ぐに進むと、7方向に向かう分かれ道に行きついた。


シナリオ通りなら、1時の方向だ。


俺は迷わずその方向に向かう。


すると、30分ほどで小さな泉の畔に到着した。


獣から隠れるにしても、水は必要不可欠で大事だからだ。


俺は、探索魔法を発動して獣以外の波動を探していく。


すると、泉の反対側にそびえ立っている大木の根元にある祠の中から、

人の波動を感知した。


祠かぁ...。


設定は、大木の根元の小さな穴だったよな。


まぁ、良いかぁ。



俺は、泉の反対側に回り祠に近づくと、怖がらせないように静かに声を掛けた。


「俺は、冒険者の創作だ。 キタキツネの獣人を探しに来た、合っていたら出て

来てくれないかな」


すると、祠の扉が開いて10歳くらいのキタキツネの女の子が飛び出してきた。


無事に一晩過ごせたようだ。


飛び出してきた女の子は涙を浮かべて、俺の脚にしがみついた。


俺は、女の子の頭を軽く撫でると、その身体を抱え上げて肩の上に座らせた。


すると、女の子は安心したのか涙を拭うと笑顔を見せた。


「頑張ったな。 帰ろうか」


「うん」


俺は、祠の扉を閉めて手を合わせると、お辞儀をしてその場から離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る