第6話 川は広いな大きいな
昔、似たような言葉を聞いたことがある。
確か......、
海は◯いな大きいな♬だったと記憶している。
拠点の川岸を出航して、かれこれ1時間は過ぎたと思う。
「創作さん、向こう岸はいつまで経っても見えてこないですね」
「まったくだ。 ここら辺りで、おやつタイムにするか」
俺はマジックバッグから揚げパンを取り出した。
昨夜、拠点で作っておいたものだ。
「ほら、ティナ」
俺の呼びかけで振り向いたティナに揚げパンを渡す。
「えっ、貰っていいんですか?」
「少しお腹も空いただろう。 遠慮なく食べてくれ」
「はい、頂きま~す」
おやつを食べながらも、周りに視線を配りながら風を受けるようにセールを
動かしてやる。
しかし、丸太船の速度を上げるまでの風量は見込めないようだった。
このままの状況だと、この丸太船の上で一晩を過ごさなくてはならなくなる
感じだ。
そこで試しにと、俺は風の魔法で帆に風を当ててみる事にした。
「ティナ、風の魔法で帆に風を当ててみるから、頭を下げておいてくれ」
「はい、了解です」
ティナが頭を下げた事を確認した俺は、無詠唱で風を発生させて帆に向かっ
て当ててみた。
が......。
余り良い結果は得られなかった。
俺と帆の間隔が近すぎて、風の魔法の効果が出なかったのだ。
強風にすると効果は出るかもしれないが、転覆の危険性も増すことになるので
この方法は取りやめにした。
丸太船自体は、川の流れと自然の風で進んではいるのだが、なかなかスピード
が上がらないのが弱点となっていた。
そこで、俺は考えに考えた、そして閃いた、海外の刑事ドラマなどに出て来る
海の上での追いかけっこ、そう高速で進むボートの映像を思い出したのだ。
マイア◯・バイスに、CSI:◯イアミ。
その他にも、沢山あった。
そこで俺は、風の魔法ではなく、水の魔法に変えて、そして高圧洗浄機の水流
と水圧をイメージして、水の魔法を発動してみた。
“ウォーター”
俺の両手から勢い良く高速の水流が水面に突き刺さった。
そう突き刺さった...だ。
これでは、何の意味もないじゃないか。
俺自身から直接魔法を撃っても意味はない、そうすると後考え付くのは丸太船に
何か細工を施すぐらいしかないが......。 ?????
あるじゃん! 魔法陣がある‼
船底に施すのが一番だが、もう川に浮かんでる状態だ。
そこで俺は、前後左右の推進性のバランスを考えて船横の川面に沈んでいる部分
で船の先端から三分の二の所に、風と水の魔法を重ね掛けミックスにした魔法陣
を左右の船横の同じ位置に設置してみた。
「ティナ、ごめん。帆を降ろすのを手伝ってくれ」
「は~い」
帆を降ろして収納すると準備完了だ。
「ティナ、マストにしっかりと掴まっていてくれよ」
俺は、両手を魔法陣に当て魔力を流してみる。
すると、泡立った水が発生して船を前方へと押し出し進み始めた。
丸太船が勢い良く進み始めた事に、気を良くした俺は更に流す魔力の量を
増やした。
ドンドンと加速していく丸太船、切っ先から後方へと白波が起っていく。
そして、30分もすると向こう岸がうっすらと見えてきた。
いやぁ~、空想上のシナリオと現実とのギャップが酷過ぎる。
思考錯誤と試行錯誤の繰り返しになりそうな気配を感じて、少しだけ気が
滅入る俺だった。
ティナの方はというと、丸太船のスピードが速くなった事には驚きもせずに、
むしろその事を楽しんでいるようだった。
向こう岸がうっすらと見えた辺りから、さらに30分ほどで対岸へと無事に
たどり着くことが出来た。
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