第5話 川を渡る準備

翌日......。


朝早く起き出した俺は、丸太船の仕上げに取り掛かった。


大きさ的には二人の人間と、二人分の荷物が積めるような構造に造ったつもりだが

実際には丸太船を川に浮かべてみないと、仕上がり具合は分からない。


後は地球のヨットを参考に、帆を掛ける為のマストと船体の左右バランスをとる為のフィンキール、それと舵を取り付けなければいけない。


動力は風なんだが、上手く捉えられるかどうかだな。

出来なければ、風魔法で代用かな。


作業を開始して5時間......。


お日様も真上まで昇り、昼飯の時間となっていた。


「創作さん、お昼ご飯はまだですか? お腹が空いて大変です」


「あ~、俺も丁度お昼にしようと思っていた処だ」


ティナは、お腹が空き過ぎたようで、川岸まで迎えに来たようだ。


急いでテントのある拠点へと戻り、昼飯の用意を始める。



30分後......。


「ティナ、昼飯の用意が出来たぞ」


「は~い、待ってました」


そう言うと、渡そうとした深皿とスプーンをひったくる様にして俺の手から奪うと

無我夢中で食べ始めた。


“少しは女の子らしい仕草をしなさい”

と、口には出さないが、胸の内ではそう思っていた。



昼飯を食べて、休息を取った俺は再び川岸に戻り作業の続きを始めた。



夕方5時、川面が夕陽に染まる頃、今日の作業が終わると同時に、丸太船も完成した。


明日は朝から、試験航行開始だ。



翌朝......。


ティナにも手伝って貰い、丸太船を川岸から移動して川面に浮かべた。


「お~、大丈夫そうだな」


「凄~い。 こんな船初めて見ました」


「ティナ、先に乗ってくれ。 俺は、係留ロープを解いてから乗り込むから」


俺の指示に従ってティナが行動する。


俺は、ティナが丸太船に乗ったことを確認してから、係留ロープを解くと丸太船へと飛び乗った。


「わ~、創作さん。 揺れる、揺れる」


「この丸太船は横方向の揺れには強いから、心配しなくても沈みやしないよ」


そうしてるうちに船の揺れが収まってきた。


「さぁ、試験航行開始だ」


「お~ぅ」


この川は対岸が見えないだけあって、流れは非常に緩やかになっている。

後は、風を上手く掴めるかどうかだな。


30mほどは、川の流れに任せて流されるままにしておいた。


「創作さん、流されてますけど良いのですか?」


「あ~、これでいいんだ。 川の流れの速さを調べる為だから」


「そうなんですね。 辺に口を挟んで済みませんでした」


なかなか、素直な考えをもっている女の子だ。


「そんなに神妙にならなくても、怒らないから安心して」


「はい!」


さてさて、そろそろ風を掴む為に帆を張ってみますかね。


「ティナ、その紐を、そこの金具に結んでくれるかな」


「この紐」


「あ~そうだ、その紐だ」


ティナが、金具に紐を結んでいる間に、俺は帆を広げていく。


「わ~、凄いです。 綺麗な三角形の布が開いてます」


俺はそんなティナの喜んだ顔を見ながら、風を捕まえる為にセールを操作した。


「微風だが、何とか進む感じか」


「創作さん、さっきよりも速く動いていませんか?」


「そうだよ、帆が風を受けて速さがましたからなんだ」


キョトンとした表情で、俺の方に視線を向けているティナ。


「どうしたんだ。 ティナ」


「もう、凄いとしか言葉が出ません」


2時間程、試験航行を繰り返しても不具合は発生しなかったので、明日はいよいよ

対岸に向けて出航だ。

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