第3話 はじまりの街
【3】はじまりの街
「無理!魔王討伐なんて絶対無理だから!」
りのは首をブンブン横に振りながら、アリアに無理だと伝える。
りのとアリア目の前には、殿様かえるとの激しい?戦闘の後が広がっていた。
地面はえぐれ、所々に小さな穴があいている。
その光景を目の当たりにしながら、アリアが呟いた。
「ワシの魔力もこの戦闘で、だいぶ減ってしまったわぃ。して、お主は何なのじゃ?」
アリアはりのの肩の上で、グデーっと倒れている。
先ほどの戦闘で、疲れてしまったからであった。
先ほどの戦闘では、アリアの魔法で殿様かえるの動きを止め、りのが一生懸命蹴る。
これを数十回ほど繰り返すと、殿様かえるは身体から、白い煙をあげ、薄ーくなって消えていった。
この戦法は、ヒットアンドアウェイという闘い方であり、攻撃したら一度離れ、また攻撃しに行き、また離れる。
これを繰り返すのだが、この戦闘のおかげで、二人とも精神共にクタクタであった。
「はぁー。とりあえず、チュートリアルに戻るとしよう。さっきの続きじゃ・・タップを唱えよ」
「私の話し、聞いてた⁉︎」
「聞いておったわ。それよりもじゃ、死にたくないならきちんと聞いておいた方が身の為じゃぞ」
アリアはりのにそう告げると、りのの右手首付近へと飛んでいく。
死ぬという単語が聞こえ、りのはしぶしぶ「タップ」と、唱えた。
「良し!よいか?ここがお主の経験値というやつであり、またお主のステータスというやつじゃ」
右手首に座っていたアリアは右手を挙げ、りのに色々説明していく。
「ね、ねぇ?力も魔力も少ない気がするけど、レベル1だからなの?」
「・・・解らん。このようなステータス、見たことがないわい」
「・・・いい意味で?」
「んな訳あるか!」
「ですよねぇ・・」
りののステータス。
攻撃力・・・10
防御力・・・10
素早さ・・・50
魔 力・・・10
可愛さ・・・25
MC力・・・3
女子力・・・0
「ちょっと待って‼︎この可愛さとか女子力とか何⁇って言うか、MC力って何よ‼︎」
「だから言うておろう。見た事がないと。しかし、女子力0ってなんじゃ」
「し、知らないわよ!」
女子力がないと言われてしまったりのは、顔を赤く染めた。
アリアの視線が痛い。
「まぁ良い。魔法使いでないなら武術家か、賢者か何かじゃろ?どれ、職業を見てやろう」
そういうと、アリアは右手の親指と人差し指で、丸を作り、その穴からりのを除きこんだ。
「どれどれ。職業は・・アイ・・ドル・・何じゃ貴様!」
「何じゃ貴様って何よ!アイドルはアイドル。現役女子高生アイドル水瀬りのよ!」
「して、そのアイドルとやらで、魔王を倒せるのか?」
両腕を組み、ん?っと目で訴えるアリア。
「……うっ!?」
しかし、流石に黙ってはいられないりの。
「ちょっと待って!魔王を討伐してほしいのなら、どうして勇者とか魔法使いとかにしてくれなかったのよ。それは私のせいじゃないわ」
魔王を討伐してほしいのなら、最初からチートスキルの一つや二つ、ポンっと用意しときなさい!っと、りのは心の中で呟いた。
「お主が選んだんじゃろ?」
「えっ?」
「ワシはお主を呼ぶ前に、色々と選ばせたはずじゃぞ」
(私が選んだ?一体何を言っているの?)
アリアが言っている言葉の意味が解らず、固まるりの。
「なんじゃ?覚えておらんのか?どれ、確か・・」
アリアはそういうと、右手人差し指でこめかみ部分に指をあて、何やらブツブツ呟いた。
「水瀬りの17歳。東京都に住んでおり、スリーサイズは上から7「ちょっと待って!」
りのはアリアに向かって、右手を真っ直ぐ伸ばし、待ったをかけた。
「どどど、どうしてそれを知ってるの?」
「どうしても何も、お主が教えてくれたではないか」
アリアの言葉に、固まってしまうりの。
なぜ初めて会ったアリアが、この事を知っているのかという疑問に、一つだけ心あたりがあった。
りのが迷った挙句、入ったあの部屋である。
「じゃ、じゃぁ最後の職業を選んで下さいっていう質問は・・。」
「勇者、賢者、魔法使い、僧侶、武術家など、魔王討伐するにあたっての職業じゃ」
「ちょちょ、ちょっと待って。じゃぁ私が選んだアイドルって・・何?」
「だ・か・ら。さっきから言うておろう。アイドルとやらで、魔王討伐なんてできるのか?と」
アリアの言っていることが本当であるならば、アイドルを選んだのは確かにりの自身である。
しかし、最後の質問の意味がそういう意味だということを、りのは知らなかった。
「そ、それなら、ちゃんと書いておくべきじゃない!魔王討伐の事や、職業の意味についても」
可笑しな話しだ。
魔王討伐の事や職業の意味が書かれていたならば、自分はこんな所に絶対来ない。
いきなり訳も解らない所に連れてこられ、挙句には魔王を討伐しないと帰れないなんて、そんなバカな話しがあるか。
りのは力説する。
魔王討伐なんて無理だから、お家に帰りたいという思いとともに。
「・・書いておったハズじゃぞ?」
「書いてなかったわよ!」
ここは譲れない。
書いてあったなら、自分はこんな目には合わなかったはずだ。
りのは両手を腰にあて、アリアに向かってそう告げた。
するとアリアは、そ〜っと後ろを向き、ボソボソ呟いた。
「か、書いてなかったかのぉ?」
「ない!」
りのの視線が痛い。
じーっと見つめていると、アリアはプルプル震えだした。
しばらくすると、くるっとりのの方を向き直し、アリアは涙目になりながら、りのに語りかけた。
「し、仕方がなかったんじゃ。誰にだってミ、ミスはあるものじゃわい」
右手で涙をぬぐいながら、プルプル震えている妖精を目の前にして、りのの頬が赤くなる。
(か、可愛い・・・ダメダメ!それとこれとは別問題よ)
可愛いから許される問題ではない。
自分の
「誰にでもミスはあるかもしれないけど、今回のはミスしましたで済む問題じゃないわ」
すると、アリアは下を向いた。
りのの右手首に、冷たい雫が落ちてきたのを、りのは感じとった。
「す、すまんかったのぉ」
ポツリと呟かれる、アリアの謝罪の言葉。
思わず抱きしめたくなるりのは、アリアに告げる。
「許す!!」
(か、可愛いすぎなんですけど‼︎後ろから思いっきりハグしたいんですけど‼︎)
両手をブンブン縦に振り、ダメダメそんな事できないと、首を横に振るりの。
ギュッなんてしたら、アリアが死んでしまう恐れがある為、我慢、我慢と、りのは悶える。
両目を瞑ってしまった為、アリアの口元がニヤリとしていた事に、りのは気づかなかった。
(か、可愛いは正義‼︎)
(かかったな)
ニッコリ微笑みあう二人の女の子。
しかし、気持ちは全く違っていた。
ーーーーーーーーーーーー
雑談のおかげで、体力が少し回復したりのとアリアは、これからについて話しあう事にした。
「とりあえず、さっきの戦闘で疲れたから、どっかで休みながら喋りましょう」
(できるならシャワーを浴びたい)
「そうじゃな。さっきの戦闘でお金も入ったし、街に入ろうぞ」
(できるならお肉を食べたい)
やはり、二人の気持ちはバラバラであった。
ーーーーーーーーーー
別名、はじまりの街と呼ばれるこの街の本当の名は、ダイダスと呼ばれる。
しかし、ダイダスという名は、可愛いくないということで、街の人々さえも、はじまりの街と呼ぶようになった街らしい。
街の入り口の門を潜り抜けながら、アリアと雑談するりの。
イタリアにありそうな、オシャレな門であった。
雑談をしていると、あちらこちらに看板があり、看板には、ようこそ!はじまりの街へ!と記されていた。
中にはその下に、旧ダイダス通り!と書かれているものもあった。
「可愛いくないからって、街の名前を呼ばないなんて、ちょっと可哀想じゃない?」
「インパクトの問題じゃろ」
「あっ。なるほど・・」
アリアの返しに、アゴに手をあてながら納得するりの。
ようこそ!ダイダスへ!と、ようこそ!はじまりの街へ!では、確かにインパクトが違う。
深夜の通販番組や、広告などによく使われる殺し文句である。
(噂ではその昔、象が踏んでも壊れない筆箱!という殺し文句がついた筆箱が、あったとかなかったとか)
実際に、象に踏ませて実験をしたのだろうか?と、気になったりのは、携帯で調べる事にした。
携帯、携帯、携帯と、りのは胸ポケットから腰ポケットに手をあて、スカートへと手をあてる。
「ね、ねぇアリア?私の携帯知らない?」
「知らん!それよりもりの!アレ食べたい」
チラっとアリアがいる方、りのの左肩の上を飛んでいるアリアに目を向けると、アリアは人差し指をくわえ、目を輝かせながら、ヨダレを垂らしていた。
「し、知らないじゃないわよ!後、衣装によだれを垂らさないようにして」
これは一大事である。
アイドルである、嫌、芸能人である自分の携帯が紛失したのだ。
一応、ロックはかけてはいるのだが、携帯がそばにいないと、不安になってしまう。それに携帯には、事務所の先輩方の個人情報も入っている為、自分だけの問題では済まされない問題なのである。
お風呂の時もトイレの時も、寝る前でさえ、肌身離さず持ち歩いている携帯が、自分の元にいない。
「け、警察署に行くわよ!」
「警察⁇食べ物か?」
聞きなれない単語ばかりでてくる。
アリアはちょこんと首をかしげながら、りのにたずねた。
「食べ物じゃないわ。ま、まあ、国の治安を維持する人達って所かしら」
正確には、刑事係、地域課、交通課、爆弾処理班などなど、警察と言っても、一言ではいい表せない。
しかし、警察官とは部署や職種が違えど、気持ちや、やる事は同じはずだ。
りのはアリアにざっくり説明し、警察署を探そうと提案する。
「迷子よ迷子!全くもう。何処に行っちゃったのよ」
「生きておるのか?」
「あははは。携帯は機械よ?生きていないわよ」
ならば、携帯は何処にも行かないはずでは?キョロキョロ辺りを見渡すりのに対し、アリアはため息を少し吐き、りのに告げる。
「よく考えてみろ?そんな物はこの国にはないぞ」
「な、ないじゃ済まされないのよ」
アリアに、そう告げられたりのは焦った。
しかし、冷静になって周りを見てみたら、アンテナがない。アンテナがないのであれば、携帯があっても使えないだろう。
アリアと携帯について、話しあっていると酒場の近くを通りすぎる。
「とりあえずじゃ。ホレ。あそこで何か飲みながら考えればええんじゃないか?」
アリアは酒場を指差しながら、りのに提案をする。チラっとアリアが指をさす方へ顔を向けるりの。
通行人に酒場だとわかるようにか、ビールみたいな絵が描かれた看板がぶら下がり、入り口には映画やアニメなどでよく見かける扉があった。
ドアノブや引き戸はついておらず、くぐり抜けると、両方に木の板が開くタイプの入り口である。
「ゆ、夢のようだわ…まさかこんな所で叶うなんて…」
当然、アニメやマンガ好きのりのにとっては、一度でいいから行ってみたい場所にランクインしている場所であり、テンションは上がっていた。
ゆっくり、ゆっくりと、噛みしめるように入り口に近づくりの。
ガタン。ガタン。と、入り口のドアが音を鳴らす。
一つの夢が、叶った瞬間であった。
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