第2話 チュートリアルは大事!
【2】チュートリアルは大事!
最後の文字が現れると同時に、部屋の中が白く輝き始めた。
眩しさのあまり両目を瞑り、両腕で顔をガードするりの。
どれくらいそうしていたのか解らない。
一つだけ言える事があるとすれば、次に目を開けた時りのは、訳の分からない場所に立っていたということだけであった。
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そこは草原であった。
右を見ても、左を見ても、前を見ても、草しか見えない。
草。草。草。草。
後ろを振り返ると、街が見える。
レンガで出来た外壁。
その奥には家の屋根が複数見える。
「・・・・ふぇ?」
思わずマヌケな声を出してしまう。
自分はさっきまで、録音スタジオらしき場所で、キーボードを叩いていたはずなのだが…気がついたら知らない風景を眺めているこの状況。
落ち着けという方が無理であった。
「夢…だよね?」
右の頬をつねるりの。痛い。つまりこれは、夢ではないということだ。
「どどど、どうなってるの!!!」
パニックである。
ババババっと、首を色々な方角へ向けるのだが、やはり草しか見えなかった。バッっと自分を見ると、服装が変わっている事に気付いたりの。
「・・ステージ衣装だよね?」
上下赤い服には、黒いハートの模様が散りばめられており、黒い靴下は膝上まであったり(ニーハイ)と、水瀬りののファンなら誰もが知っている格好であった。
腕をあげ、足をあげ、自分の格好をジロジロ眺めるりの。
「相変わらず、可愛い衣装よね」
スタイリスト兼、衣装係の、川端さんの事を思い出しながら呟くりのは、ある事を思い出していた。
最後の質問である。
「待って。アイドルと答えたからと言って、この格好をしているとは限らないじゃない」
両腕を組んで、ブツブツ呟くりの。
そんな馬鹿な話しがあるか。
気づいたらジャージから衣装に着替えているこの状況。勿論、着替えた覚えはない。つまり、着替えさせられたということだ。
(ま、待って!?だ、誰よ!!)
女性ならまだいい。
もしも男性だったなら、それはマズイ。
今日の下着の色は…。ほっ。ちゃんと上下揃えといて良かった…。いや、そこじゃないわよ私!
「・・・おぃ?」
「おいってば!!」
「キャッ!?」
どうやら誰かに呼ばれていたらしい。
ビクっとしながらも、声がする方へと顔を向け、恐る恐る目をあけるりの。
「やっと気付いたようじゃの!」
そこには、小さな妖精らしき人が飛んでいた。
水色の服に、ピンクがかった髪。
ツインテールの妖精は、アニメで見た事がある、ティンカーベルみたいな格好をしていた。
「えっと・・どちら様ですか?」
両腕を組んで、プカプカ空を飛んでいる妖精らしき人は、自分に話しかけているんだと察したりの。驚きながらもらとりあえず名前を聞く事にした。
「ワシはアリア。見ての通り可愛い妖精さんじゃよ」
「わ、私は水瀬りのといいます」
自分で可愛いって言う?嫌、可愛いんだけどさ。
そんな事を思いながら、アリアと名乗る妖精に、りのは自己紹介をする。
「りのか。うむ。これからヨロシク頼むぞ」
「宜しく…って、え、えぇぇ!?」
ようやく今の状況を理解する。
自分は知らない場所で、妖精と会話をしている。
これではまるで、異世界に飛ばされた人みたいではないか。
ま、まさか!?いやいや、ないない。
アニメや漫画じゃあるまいし。
手をブンブン横に振って、自分で自分にツッコんでいると、アリアがこんな提案をしてきた。
「ところでりのよ。面倒くさいんだけど、チュートリアルはいるか?」
「チュート・・リアル?」
「なんじゃ?まさかお主、チュートリアルの意味がわからんのか?はぁ…」
「いやいや、意味はわかるけど、チュートリアルをする意味が解らないって事よ!」
だから、そんな人を小馬鹿にした態度をやめなさいと、りのは目で訴えた。
「まぁ、やってみるのが一番じゃろ。ほれ、シポル」
絶対、説明するのが面倒くさいだけだろうとりのは思ったが、口にはしなかった。
いや、できなかったが正しいだろう。
なぜなら、アリアが何かを唱えると、アリアの指先が光り輝き、ビビビッと、何かが地面にとんでいったのだった。
は、はい?と、りのが驚く目の前で、メキッと、地面から音がしたかと思うと、ボコボコっと地面が膨れあがり、1匹の人形が姿を現したのであった。
「ちょ、ちょっと待って!何・・アレ?」
「ん?アレは殿様かえるじゃ」
「え?カ、カエル!?カエルには見えないんですけど」
殿様かえると呼ばれた人形。
しかし、その姿はどう見ても人の形をしており、カエルには見えない。
ちょんまげをしていて、ほっぺに赤い●の模様。THE 殿様といえばコレ!!的な感じである。
「ふーヤレヤレ。カエルではなく、帰るじゃ」
「えーーっと。殿様帰るって事?」
「そうじゃ。ホレ、何しておる?倒してこい」
「た、倒すの!!誰が??私が!?」
驚きのあまり、大声を出してしまうりの。
「カエル・・帰る」
しゃ、喋った!っと驚いて殿様かえるを見るりの。すると、殿様かえるは地面へと帰って行った。
「何やってるんじゃ!!」
何やってるも何も、いきなり倒してこいと言われたらそうなるでしょ!っと、りのはアリアに文句を言おうとしたのだが、アリアがシポルっと言いながら、地面に指を向けた。
すると、先ほどと同じように、地面から殿様かえるが姿を現した。
「カエリタイ・・帰りたい」
帰れよ。
りのは殿様帰るを見ながら、そんな事を思っていた。
「ほら!りの。帰ると言っていない今がチャンスじゃぞ!」
「だ、だから倒すとか意味わかん無いし」
アリアが鼻先で、行け!行け!っと合図を送ってくるのだが、全く意味が解らない。
りのがそう意見すると、アリアはプイっとそっぽを向いた。
「・・・チッ!!」
「・・・今、舌打ちしたでしょ?」
「妖精は舌打ちなどせんわ。それよりも面倒くさくて極まりないが、説明をするとしよう」
アリアは、お手上げポーズをとりながら、りのの鼻先から、右肩にちょこんと座る。
(め、面倒くさいって…が、我慢よ!我慢するのよりの!)
殿様かえるは帰って行く。
りのとアリアの初めての出会いは、最悪であった。
ーーーーーーーー
草原に体育座りをするりの。
りのの肩にちょこんと座るアリア。
右手人差し指をピンとたて、空に向けながらアリアは得意気に話し始めた。
「さてと。良いかりのよ。今この世界はとても危機的状況なのじゃ。と言うのも、バカな勇者が魔王にちょっかいを出しおってのぉ。魔王が激オコなのじゃ」
「ちょっと待って。魔王とか勇者とか意味解らないし・・」
「まぁ慌てるでない。人の話しを遮るものではないぞ」
アリアに注意されるりのであったが、今のはアリアの言い分が正しい。
コクリとうなずいて、アリアの話しの続きを待った。
「先ほども言うたが、バカな勇者が、対したレベルでもないのにちょっかいを出したものだから、この世界は危機的状況になっておる。そこで神は、私達妖精に助けを求めてきたのがことの始まりというわけじゃ」
「…………」
りのは無言を貫いた。
全てを聞いてから、アリアに質問をしよう。と、考えながらである。
「そこでじゃ。我々妖精は考えた。この世界を救う人物、すなわち、異世界人の召還で、魔王を倒そうと」
「待って!それじゃぁ私は・・」
流石に黙ってなどいられなかった。
アリアの言葉を遮って、りのはアリアに質問をする。が、質問をする前に、アリアは分かっている分かっていると、納得顔でりのの質問を遮った。
「左様。水瀬りのよ。魔王を討伐し、この世界を救ってほしいのじゃ」
アリアは両手を広げ、よくぞ来てくれました!みたいな、そんな態度である。
そんなアリアを見ながらりのは即答する。
「ごめんなさい。無理です」と。
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異世界?妖精?勇者?魔王?一体自分の身に何が起きているのだろうか。
それすら分からないのに、魔王を倒せとか、世界を救えとか、バカにするのもいい加減にしてほしい。
きっと何処かで、プロデューサーか誰かが支持を出していて、ドッキリでしたぁ〜と、姿を現わすに違いない。
さっきの人形(殿様カエル)はラジコンか何かで、この草原は映像か何かだろう。
白い建物にライトをあてて、白い建物から花火が打ち上がったり、別の建物に見えるようにしたりするのを、テレビで見た事がある。ホログラフィーだったか?などと考えるりのに対し、アリアは残酷な真実を告げる。
「いや、りのは魔王を倒せねばならん」
「・・・・え?」
「倒さんと現実世界に帰れんからのぉ」
「・・・ハイ?」
アリアは両腕を組みながら、りのに忠告する。
魔王を倒さないといけない理由を。
「ちょ、ちょっと待って。仮にそうだとしても、私一人じゃ魔王討伐なんて無理だから」
「仲間を集めればよいではないか?それに、一人ではない。ワシがおるじゃろが」
(か、可愛い♡・・ダメダメ)
可愛いくウインクしてくるアリアに、キュンっとしてしまうりのだったが、首を横にふり、しっかり!と、己に喝を入れた。
きっとプロデューサーは、撮れ高が足りないよ〜。と、嘆いていて、ドッキリでした〜のタイミングを見計らっているに違いない。
しかし、何処の放送局で、いつ放送されるかが解らない以上、マヌケな顔はなるべく見せたくない。
何故なら自分は、アイドルなのだから。
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りのは考え、アリアに提案する。
「わ、分かったわよ。とりあえず、さっきの殿様を倒せばいいんでしょ?」
仕方がないので、この茶番劇に付き合う事にしたのである。
マヌケ面に気をつけながら、ドッキリにかかったフリをして、適当な所で泣いてる顔でも撮らせれば、満足するに違いないと考えたのである。
「おぉ!やっとやる気になったんじゃな」
「ま、まぁね。お家に帰りたいし」
嬉しそうに微笑むアリアに、若干というか、かなり顔をひきつらせつつ、りのはうなずいた。
「言い忘れていたが、殿様かえるは雑魚モンスターといえど、攻撃を仕掛けてくるから気をつけるのじゃぞ」
「ハイハイ。さぁ!どっからでもかかって来なさい」
バッ!バッ!と、カンフーっぽい構えをとってみるりの。
きっと今頃、カメラマンやプロデューサーは爆笑しているのかもしれない。
しかし、演技上手いじゃん!と思われれば、ドラマのオファーがくるかもしれない。
芝居がかった返事をアリアに返すと、アリアはりのの頭の上(丁度つむじの部分)へとやって来て、ボソッと呟いた。
「・・・死ぬなよ」
え?死ぬ?っと呟くりのの目の前に、殿様かえるが姿を現した。
しかし、殿様かえるの様子がおかしい。
「ちょ、ちょっと待って!死ぬって何よ!ねぇ?ねぇ!」
「だ、大丈夫じゃ。あたりどころが悪かったらという、仮説じゃ」
「そ、それに、さっきと違って、顔赤いし、喋っている内容も違うんですけど」
殿様かえるの顔は真っ赤であった。
さっきまで、カエリタイとか、カエルとか呟いていたのだが、今は違う。
「カ、カエラセロ。帰らせろ」
帰ってよ。
りのはそうツッコもうとしたが、できなかった。なぜなら、殿様かえるが突進して来たからであった。
ダダダダ。
「ひ、ひぃぃぃい!!」
「こ、コラ!さっきまでの威勢はどうしたのじゃ!」
ドゴォーーン!!
「いやいやいや!普通にビビるわよ!」
マヌケ面を晒さないとかのレベルではない。後ろを振り返ると、さっきまでりのがいた地面がめくれ上がっていた。
Vの字になった地面。その前には殿様カエルの姿。まるで、ブラック企業に就職してしまったサラリーマンを代表したように、ボソボソと呟き続けている。
帰らせろ!と。
あんなのをまともにくらったら、骨が折れてしまう、否、死んでしまう。
「な、何をしておるのじゃ!魔法を放たんか」
と、アドバイスを送ってくるアリア。
当然、りのは抗議する。
「魔法って何よ!!」
殿様かえるの反対方向へと走って行くりのに対し、アリアがアドバイスを送ってくるのだが、りのには訳が分からない話しであった。
「武器も持っておらんし、その格好は魔法使いではないのか?」
「え?そうなの?」
不思議そうな顔をするりのを見て、アリアは気がついた。
「すまんすまん。魔法の使い方を説明せんといけんかったわい。シポエ」
アリアは呪文を唱え、殿様かえるの動きをとめた。
「魔法は普通に呪文を唱えれば発動可能なはずじゃ。例えば、ファイヤーとかな。使える魔法の確認をまずせねばいかんの…どれ。右手を前に出して、【タップ】っと、唱えてみるのじゃ」
「・・・タップ」
何を言っているのよと、内心では思いながらも、茶番劇に付き合うと決めたりのは、アリアの言う通りにする。
すると、りのの目の前にiPadサイズのウィンドウ画面らしきものが浮かび上がる。
「・・・な、何コレ?」
固まってしまうりの。
そんなりのを他所に、アリアが使い方の説明に入った。
「コレで、現在のレベルなどのステータスが確認できるのじゃ。ホレ、読んでみよ」
「ミナセリノ。レベル1・・。」
りのは、ウィンドウ画面に書かれている文字を読み上げていく。まるで、RPGゲームのようなステータスがずらりと並ぶ。
「使える魔法は何じゃ?」
「え〜っと。魔法、魔法。あった!魔法・・歌う。踊る」
「・・・」
固まる二人。
数十秒の沈黙が流れた。
「き、貴様、何者じゃぁぁ!!」
「し、知らないわよ!!」
アリアの絶叫に対しりのは、絶叫で返すのであった
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