お題【雪】 雪

「雪が見たかったわ」

 初夏の頃、アンナはそう答えた。内臓の腫れが悪く、長くはないと医師が告げた日だった。

「ではまずは病を治そう」

 夏が過ぎ、秋が行き、冬が来ても、彼女は一向に良くならなかった。

「この分だと…無理そうね」

 この国に雪が降ることは稀だった。それでも僕は、アンナの願いを叶えたかった。

「アンナ、雪が積もったよ」

 ある朝早く、アンナを車椅子に乗せて僕は家を出た。椀に盛った冷たいものを触らせてやる。

「まぁ、これが雪なのね」

「あたりは一面真っ白だ。さぁ、もう中へ入ろう」

 ──人が来て、僕の嘘がばれてしまう前に。

 アンナは、愛おしそうに僕の削った氷の入ったボウルを撫でた。

 彼女は目が見えなかった。

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