7-3 生徒会からの招待状
買い物を終え、寮へと戻った後、私は適当な女中を捕まえて荷物を二人の部屋に運んでもらうように手配する。
「では、今日はこれで。他の荷物は後日寮に届くことになっていますから、二人共受け取るのですよ?」
「は、はいっ」
「……分かった」
とりあえず元気は返事を聞いて、腰から下げた懐中時計を確認する。
カトレアと離れていたのは……三時間程度。
(……あまり、散らかしていないと良いけど)
そんなことを考えながら、私は扉に鍵を刺した。
* * *
「カトレア様」
「……んぁ? あぁー……おかえり、ヨヅキ」
放課後、久々に一人で眠っていた私は、ヨヅキの声で目を覚ました。
確か久々に本を読もうと思って適当な大衆小説を出したことは覚えているが……途中で寝落ちたのだろう。その証拠にベッドサイドにはクッキーと、ヨヅキが出る前に入れてくれたお茶がそのままになっていた。
「結局、制服着替えなかったのですか?」
「んぁー……そうだね」
新しく紅茶を受け取って自分を見る。
そういえば出る前に着替えられるよみたいなことを言った気がするが……今はヨヅキがいるからいっか。
いつものように足を差し出すと、ヨヅキは諦めたように苦笑しながら靴下を脱がしてくれる。
「全く……カトレアはいつも甘えん坊ですね」
「だって……僕にはヨヅキがいるでしょう?」
靴下を脱がしていたヨヅキの手が止まり、そうですね、と言って足の甲にキスをしてきた。あまりにもビックリして蹴飛ばしかけるが、当たり前に首を傾げて避けられた。
「危ないじゃないですか」
「危ないのはヨヅキでしょ!?」
思わず突っ込んでしまったがヨヅキはほら反対も脱がしますよ、と悪戯っぽく笑って脚を手に取る。私を
空いたカップをサイドテーブルに置いて立ち上がる。すぐにヨヅキが夕食用にワンピースを持ってこちらに戻ってきた。
「そういえば買い物どうだった?」
「そうですね……多少問題はありましたが、全て解決してあります。あぁ、そういえば仮面のほうも本日入手しましたので後程お渡しします」
「あれ? 随分早いんだね」
随分手の早い職人がいるんだなと感心しながらスカートを脱がしてもらう。
「えぇ、既製品ですので。初めはオーダーメイドにしようと言ったのですが、ユーフィルがそちらがいいと」
「ラヴァンドラの方は?」
「本人が面倒くさがっていまして、ユーフィルが同じく既製品の中から。デザインは違いますが」
「そう、ありがとう」
ワンピースの最後のボタンを留めたヨヅキに礼を言って、近くの椅子に座る。ヨヅキが後ろに回り、髪を梳かし始めた。
「そういえばヨヅキ、お土産は?」
「ありませんよ」
「えっ!!」
思わず振り返って前を向かされる。ヨヅキは髪を編みながら言い訳を――
「カトレア様、最近お菓子食べ過ぎですよ」
……訂正、お説教だった。
「最近、授業中にもお菓子を摘まんでいますよね? それもほぼ毎時間……あぁ、グラジオラ先生のときは別ですが……ずっと飴だとかクッキーだとか――最近ですと、ポテトチップス、とかいうのまで。私、あんな油塗れの汚いお菓子、渡した覚えないんですが……どこで貰ってきたんですか?」
首元に
「お菓子、どうしましょうね? 元々お勉強頑張ったらいっぱいあげるって話だったのに、カトレア、最近ずっとお勉強しないでお菓子ばっかり食べてますもんね。ね、どうしようね?」
ブラシを指先でぶら下げたままのヨヅキの手が私の首元に当てられる。深爪気味で立たないはずの爪を突き立てられているようで、溜まった冷や汗が一気に背筋を落ちていった。
(拙い拙いまずいまずいまずい!! 大っっっっっっっ変拙い!!)
正直最近の授業は基礎ばかりで大抵理解しているし、実技以外はま~いいかなぁ~テストも満点だしヨヅキも注意してこないしぃ~? とか思って隠し持っていたお菓子やこっそりユーフィルに購買部で買ってきてもらったお菓子をバリボリ食べていたがどうやら大分おかむりらしい。
しかもヨヅキの前では絶対食べないようにしていたポテトチップスのことまでバレている。あれに関してはユーフィルにも拒否されてラヴァンドラに買ってきてもらったのにっ!!
反対側の手が私の腹をなぞる様に伸び、完全に身動きが取れない状態でヨヅキが頬を付ける。
「ねぇ、カトレアぁ?」
「は、ハイッ!」
「最近、なんかこの辺に、摘まめるものがある気がするんだけど……」
ほぼ青痣になりそうな強さで、ヨヅキはそっと私の横腹を摘まんだ。
「……戦闘鍛錬、少しふやそっか?」
* * *
翌日、ボロボロの身体を引き摺られながら朝食へと向かう。
途中何度か運んでくれないかと甘えてみたが、その度に口角が若干ずつ上がっていくのが怖くてやめた。あれ以上あがるのは
私が席に着くと、いつものように
その中から好きな物を言おうとして先にヨヅキに朝食を決められた。
メニューは栄養価の高い黒パンに具沢山の野菜スープ、ビーンズサラダとシェフの気まぐれ朝採れサラダ野菜多め。ちなみにドレッシングだけは選ばせてくれた。五分の二つから。
ヨヅキのほうは朝からステーキセットだ。流石に野菜しかないと肉が羨ましくなるが……果たして胃が持たれないのだろうか。
「カトレア様、お野菜好きなんですね」
「あー、まー……うん、野菜は……嫌いではない、かな……」
キラキラ光る視線でこちらを見るユーフィルに苦笑いを浮かべながら、モーニングティーを流し込む。……隣ですまし顔してるけど魔力が揺れてるの分かってるからな、ヨヅキ。
すぐに朝食が用意され、文字通り選り取り緑な朝食にウンザリしながらもしゃもしゃと口を動かす。
隣で綺麗なすまし顔をしたヨヅキが音もなくステーキを食べていた。
「……食べますか、カトレア様」
「……いや、いい。流石に胃もたれしそう」
「普段から脂っこいものばかり食べているからですよ。貴方もそう思いますよね、ラヴァンドラ?」
私と同じくサラダを
瑞々しい朝食を過ごした後、教室へ向かおうと席を立ったところでレジデント・ヘッドに呼び止められた。
「あぁ、カトレアさん、少し良いかしら」
「はい、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
「舞踏会のことなのだけれど……カトレアさんダンスは踊れる?」
「? 基本的な曲は最低限できるようにしてありますが……それが何か?」
私の返事にレジデント・ヘッドは嬉しそうに手を合わせ、微笑む。
「まあ、それは良かった! ではダンスのお相手だけ探しておいてね」
「は?」
思わず変な声が出た。
「あら? お手紙に書いておいたはずなのだけど……成績優秀者は最初にダンスを踊ってもらうことになってるから、宜しくね」
それだけ言うとレジデント・ヘッドはいつものように麗しく礼をして去っていく。
淑やかに礼をするヨヅキが、顔を上げてこちらにニッコリと微笑んだ。
「頑張りましょうね、お嬢様」
微笑むヨヅキの顔は、いつも以上に艶やかだった。
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