7章 生徒会からの招待状

7-1 生徒会からの招待状

 学園に入学してから早二週間が経ち、復習的な座学と実習を主とした学習にも段々と慣れ始めた頃、一年生わたしたちのもとに一通の招待状が届いた。

「……舞踏会?」

「はい。生徒会からの正式な要請とのことです」

 寮の扉に差し込まれていた手紙のうち一枚を読みながら、ヨヅキは端的に内容を伝えてきた。

 入学式前の挨拶から特段上級生と関わることもなかった私たち一年生に、歓迎と懇親こんしんの意を込めて舞踏会を開催するので各々準備をするように、との通達だった。しかもご丁寧なことに各寮室毎に人数分の手紙が指名付きで挟まっていたらしい。

 正直ここには研究と探求のために通っている私にとっては至極どうでもいいことがらであったのでいつものように断りを入れてもらおうと思ったが、ヨヅキが静かに首を振る。

 曰く、生徒会長と各学級の寮長レジデントヘッド連名での通達であり、強制参加らしい。重いため息がヨヅキに向かって落ちていった。

 しかも開催は二週間ほどであり、新しいドレスを仕立てている時間など――

「ドレスでしたら既に仕立ててあります」

「……マジ?」

「はい。こういったことがあるときようにと」

 当たり前のように手紙を仕舞いながらヨヅキがそう言い切った。

 制服を仕立てるにしても異常に細かく図るなとは思っていたが、その為だったか……。

 わざと脱力してクルクルと回りながら諦観と抗議を示していたが、ふとユーフィルのことを思い出す。

「それって庶民組はどうなるの? ドレスとか作法とか……大変じゃない?」

 たとえ内々に開かれる舞踏会とはいえ、ここは王国主導の学園であり、将来的には王城で過ごす者もいるのだ。そんな中で粗末な格好をしては出身領地の、いては未来の無様を曝すようことになる。それだけは避けなければならない。

「その辺りは公費と支援金で回すようです。といっても上級生の着古しを仕立て直すようですが。また、そういったマナーなどを気にしないために基本的には立食で、各自仮面を付けるようにと」

「……仮面?」

 あまりにも馬鹿馬鹿しくてその場で引っ繰り返ってしまった。

 淡々と招待状を読み上げていたヨヅキが顔を上げ、私の方に差し出してくる。

「えぇ。規定は顔の半分以上を見せること、目は両目が見えること、口元が半分以上みえること、の三点です。それ以外は条件などは不問……あぁ、舞踏会とのことですので顔に装着できるのであること、も条件ですね。持参できないものに関しては当日生徒会が配るとのことです」

「なるほどね……ユーフィルのって用意できる?」

「はい、既に。ただ、仮面には少しお時間を頂きたく存じます」

 自分でも書面を確認しながら一応の確認をしてみたが、案の定用意してあるらしい。ただ流石に仮面までは用意がないらしい。

「んー……それは既製品でいいから、今度見繕ってきて」

「当日までで?」

「いや、少し細工をするから……来週末までで」

「かしこまりました……ところでカトレア様」

「ん? わっ」

 書面を読みながら返事をすると、不意に重力が戻ってヨヅキの腕に堕とされる。

 急な出来事に固まっていると少し怖い笑顔を浮かべながらヨヅキが微笑んだ。

「いい加減制服を脱いでください。皺になります」

「……いつできようになったのそれ」

「最初からです」

「…………なるほど」

 ヨヅキに服を脱がされながら、私は一人ため息を吐いた。

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