6-5 王立魔術学園 図書館
ラヴァンドラと二人、大量に魔導書を散らかしていたら、ヨヅキに声を掛けられた。いつの間にか夕方になったらしい。
そのままヨヅキと司書――こんなこともあろうかとヨヅキが連れてきていた――に本を片付けてもらってから寮へと向かった。
寮へ帰る途中、私はふと思いついたことをヨヅキに提案し――
「――ダメです」
――ようとしたら速攻ヨヅキに拒否された。
「……まだ何も言ってないよ」
「どうせ一匹欲しいとか言い出すんでしょう? ダメですよ、どこに置くんですか」
「私の部屋とか?」
「誰が面倒見るんですか」
呆れ顔のヨヅキが目を細めながら大きな溜息を吐く。
そんなやり取りを不思議そうに見ていたユーフィルが口を開いた。
「何か飼われるんですか?」
「うんちょっとね。図書館の見て欲しくなっちゃって」
「……図書館の? 図書館に動物なんていましたっけ?」
「……司書がホムンクルス」
ラヴァンドラの回答にユーフィルが目を丸くした。
基本、大規模な収容施設や魔導書や禁書を扱うような場所では買収の可能性が低く、死亡しても補充が利き易いホムンクルスがよく使われるようになっている。
他にもゴーレムやドールといった無機物たちが使わることもあり、彼らは司書と共に盗難防止のための護衛としての役目も兼ねているのだ。
そう説明してあげるとユーフィルは感心したように声を漏らしたが、すぐに小首を傾げた。
「……あれ? でもホムンクルスって寮で飼えるんですか?」
「できるよ。基本構造にもよるけど色々省略すれば魔力だけでも生きられるし」
「できませんよ。寮の規則で入れられるのは使い魔のみと決まっていますから」
「あ、あれっ?」
ヨヅキの否定に困惑し、ユーフィルが私とヨヅキを交互に見る。
私がじっとり見ると、ヨヅキはすかさず学園規則を取り出し、読み始めた。
「学園規則で許可される持ち込み可能な物品としての使い魔の数には規定があります。無論、実体を持たないものであれば例外もありますが、カトレア様は既に規定数に達しています。
それ以上の持ち込みには厳格な審査があり、その審査を受けるには前提として半年以上の学園への所属義務があります」
澄ました顔で学園規則をと閉じたヨヅキがこちらをみる。全く、学園規則を持ち出すなんて卑怯じゃないか?
そんな様子を少し困ったように笑っていたユーフィルだったが、ふと私の方を見た。
「カトレア様の使い魔ってどんな子なんですか?」
「ん? ノアールのこと? 猫だよ」
私の声に反応したようにノアールが影の中からぬったりと出てくると、ユーフィルの足にすり寄ると、金色の瞳を細めながらナァと鳴く。
その様子に小さな歓声を上げて、ユーフィルはノアールのことを抱っこしたり撫でたりと楽しそうだ。
「いいなぁ……私も欲しいなぁ……」
ノアールに頬擦りしながらユーフィルが呟く。どうやら彼女はよっぽどノアールが気に入ったらしい。ノアールもユーフィルを気に入ったらしく、ただただなされるがままで二本の尻尾をプラプラと揺らしていた。
「使い魔でしたら召喚課の授業で契約できますよ」
「本当ですかっ」
「え、えぇ。他にも自力で契約しても大丈夫な規則になっています。契約動物や召喚動物等は魔力補助としての役割もありますから。……とはいえ、動物を飼うのですから、多少の出費は掛かりますが」
「出費、ですか……」
出費というヨヅキの言葉にユーフィルの顔が少し曇る。
確かに私やヨヅキのような貴族層やある程度裕福な庶民層にとっては契約動物の数匹程度何の負担にもならないが、ユーフィルはあくまで国とクロムスフェーン領の補助によって学園に通っている。そんな彼女に多少とはいえ動物に割くような余裕はないだろう。
「――うん、決めた」
「……カトレア様?」
私の閃きを含んだ呟きに、ヨヅキが怪訝そうな顔をする。それを無視して私はユーフィルの頭をそっと撫でた。
「ユーフィル、召喚しよう」
「……え? しょ、召喚ですか?」
ノアールに顔を埋めていたユーフィルが困惑気に顔を上げた。
その瞳を覗き込んで、私は魔女の囁きをする。
「基本的に実態のある契約動物は維持費とか食事代とかにお金が掛かるけど、召喚動物とかならそういうのは一切掛からないし、召喚時に魔力をいくらか持っていかれるだけ。後ヨヅキの言ってたことから考えるに一匹位なら召喚しても学園側に通せる。そうでしょう?」
悪い笑みを浮かべる私を見ながらヨヅキはまた呆れたように肯定と溜息を漏らす。
だがユーフィルはまだ不安そうにこちらを見る。
「で、でも、召喚魔術って学年後期の内容じゃ……」
「それくらいなら別に私が教えられるし、触媒を用意しないような簡単な召喚ならすぐに覚えられるよ。今なら私が改良した魔方陣まで付けちゃう」
「カトレ――っ」
「――本当ですかっ!?」
珍しく焦ったようなヨヅキの声がユーフィルに遮られる。だがキラキラと瞳を輝かせるユーフィルの前にそれ以上何かを言うことはなかった。
「うん、だから、いっぱい勉強しようね、ユーフィル」
「――はいっ! 私、頑張ります」
先程以上にノアールを抱き締めながらユーフィルが目を輝かせる。
そんなユーフィルの頭を撫でながら、私は頭の中で式を組み立てていった。
(これは、色々面白そうなことになりそう……っ)
この後、ユーフィルが召喚したものでヨヅキやカランコエ姉様達が頭を悩ませるのは、まだ少し先のお話。
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