6-4 王立魔術学園 図書館
レジデント・ヘッドと別れた後、私達四人はテラスで食事を済ませ、そのままへ王立魔術学園 図書館へと向かっていた。
「お勉強するんですか?」
「ちょっとね。調べたいこともあるし……ユーフィルは別に一緒に来なくてもいいんだよ……?」
「だ、大丈夫ですっ!」
ユーフィルが胸元でギュッと手を握り、決意を露わにする。
孤児院で暮らしていたせいか、平均よりも一回り細く小さい彼女がすると、末の妹が自分に頑張って付いてくるようでとても可愛らしい。
「……ユーフィルは私と一緒に基礎の修練をしましょうか。宜しいですねお嬢様」
「えっ、本当ですかっ! 頑張りますっ!」
少しいじけたヨヅキがぶっきらぼうに声を掛ける。だが逆にキラキラと輝く瞳を輝かせて見つめられ、少し気まずそうに目を逸らす。
妹たちが自分を取り合うのでつい口元を緩ませにやけていると、鋭い突きが脇腹を襲った。
だがすぐにキラキラと目を輝かせていたユーフィルが不安そうにもう一人を見た。
「あっ……でも……ラヴァンちゃんは、あんまり興味ないよね……?」
「……ユーフの好きにすれば。わたしは本読めるなら別にいい」
そう
どうやら私がユーフィルを泣かせたときに声を掛けたらしく、そこからユーフィルと仲良くなったらしい。
結局食事も一緒に食べ、食後もこうして一緒に行動していた。
私としてはラヴァンドラに声を掛ける手間が減ってユーフィルにはとても感謝している。後で飴玉をあげよう。
暫くヨヅキにくっついて歩き、広い渡り廊下を超えたところで足を止めた。
「着きました」
「……えっ、ここですか?」
ユーフィルは驚いたように扉を見上げている。
目の前にあるのはおおよそ巨人族が通れそうな扉が付いたちょっとした別館。外見上は三階建て程度だが、実際には地下にも広がっているという。
だが、そんなに驚くほどだろうか? まあ確かに孤児院よりはちょっと大きいかもだけど。
「ユーフ、こういうところは初めて?」
「あ、はい、その……孤児院のも、学校のも流石にこの規模のものはなかったので……」
ラヴァンドラの問いにユーフィルが苦笑する。確かにこの規模のものは市井で暮らしている間に見るということはないかもしれない。
だが、ラヴァンドラはそれを逆に勘違いしたように、ただ小さく返事をして図書館を見上げ、
「確かに……こんなに小さいのは私も初めて見たかも」
「え……っ」
ユーフィルが絶句していた。
『ラヴァンドラって貴族? 確か名前なかったと思うけど』
『貴族ではありませんが、《図書塔》の出とのことです』
『あぁ、なるほど、《図書塔》ね』
流石に小さいとは言えない図書館を小さいと言い切ったラヴァンドラが気になり、ヨヅキに質問してみると、納得の答えが出た。
《図書塔》とは王都から少し離れたところにあるとある巨塔のことだ。
中には大量の書籍と魔導書が詰め込まれており、そこで一生――文字通り産まれてから死ぬまで――を過ごすものも多くいるという。
そこの出身ということは、彼女の生まれは《図書塔》なのだろう。
であればこの程度の建物、彼女にとっては『小さい』で収まるのだろう。
一人固まるユーフィルを置いて、ヨヅキが扉に触れる。
すると、学生証が少し光り、扉が開いた。とはいえ、開いたのはその一部で、実際には
「ユーフィル、行きますよ」
「……えっ、あっ! い、行きますっ」
ヨヅキに声を掛けられ、ユーフィル正気を取り戻す。
彼女が扉を通ったのは、扉が閉じる少し前だった。
図書館の中へ入ると、すぐに司書らしき女性がこちらへとやってきた。
「ようこそ、図書館へ。皆さんは……一年生ですね? まずは利用手続きを行ないますのでこちらまでお願いします」
案内されるままに付いて行くと、中央が
案の定そうだったらしく、ヨヅキが案内されるまま腕に付けた学生証を窪みに填める。すると少しの魔力反応の後、奥へと通された。
私たちもそれぞれそれに
「わぁ……っ」
ユーフィルが感嘆の声を上げる。
目の前に広がるのは十人がゆとりを持って座れる机が十卓ほどとその先、天井まで立ち伸びた本棚だ。既に利用者がパラパラとおり、中には同級生らしき生徒も見受けられた。
「すっっっっっごいですね、カトレアさまっ!」
「うんそうだねぇ。でも走っちゃダメだよ?」
愛らしい
「それでは、私とユーフィルは
「はい、呼びましたか?」
今すぐにでも見に行きたそうなユーフィルの手を取って、ヨヅキが司書に声を掛ける。すると作業をしていた手を止めて司書の一人がこちらに来てくれた。
「申し訳ありませんが、こちらの方を希望の棚まで連れて行っていただけますか? 連れて行ったらそこで置いて行って構いませんので」
そういって、ヨヅキが司書の胸元に何かを滑り込ませる。それを受け取った司書は変わらぬ微笑みのまま「構いませんよ」と静かに返事をした。
「ありがとうございます……それではカトレア様、私達はこれで。ユーフィル、行きますよ」
「はいっ」
二人が去ったのを確認し、司書の女性がこちらを見た。
「……さて、私達も参りましょうか。どちらへ?」
「魔導書へお願います」
「かしこまりました。それではお連れします」
浅く綺麗な礼をし、司書は歩き出す。私たちもその後について行った。
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