5-5 魔弾《フライクーゲル》
姉様達とのお茶会は結局始業の鐘が鳴るまで続いた。
一度姉様達はエニシダ先生と簡単な成績の共有と指導方針について少し協議し、その後エニシダ先生と一緒に戻ってきた。
ちなみに、魔力で編んだ糸でヨヅキとあやとりしてたらグラジオラ姉様がすっごく嫌そうな顔をしてた。余程魔力操作で苦労したのだろう。
「それでは、続きを始めましょうか。その前にウォーミングアップは必要ですか?」
「んー……まあ大丈夫です」
エニシダ先生が休憩中のタイムラグを気にしてくれたが、別に魔力を動かす程度で準備をする必要はない。その提案を断って私は定位置に着く。
それは素晴らしい、と一言言うとエニシダ先生はカランコエ先生に準備を始めた。
ちなみにグラジオラ姉様は何故か熱心に二人あやとりのやり方をヨヅキに訊いては糸を作って指をプルプルさせていた。
カランコエ先生が準備を終える頃、どこか暗い顔をしたグラジオラ姉様が帰ってきた。
「どうでした?」
「……訊くな」
どうやらダメだったらしい。
まああの技術はどちらかというと戦闘よりも技術者や研究者が必要とするスキルなのでグラ姉さまが覚える必要はないし、そういうことはカランコエ姉様が教えられるだろう。
グラジラオ姉様がパンと頬を叩いて仕事モードに切り替わり、そのままカランコエ先生に合図を送って、投射を再開する。
「魔力は薄くて構いませんからね、カトレアさん」
「はい」
相変わらずのエニシダ先生の注文をそのままに、薄く小さく魔弾を生成し、撃ち出す。予定通り穴の中心を通った魔力が後ろの壁に当たり消滅した。
……が、いつまで経ってもカランコエ先生の合図が来ない。
流石におかしいと思いグラジオラ先生の方を見ると、逆に先生の方が困惑したような顔でこちらを見た。
「…………もしかして何だが……いま、撃ったか?」
「え? 撃ちましたよ?」
もしかして外したかと思いヨヅキを見たが首を振られる。やはり当たっているらしい。
その様子を見たエニシダ先生がカランコエ先生にこちらに来るように指示を出す。やはりカランコエ先生も泣きそうな顔でこちらにやってきた。
「……もしかして、私見逃した?」
「いや……我々も視えなかった」
「そうですね……いやはやこれは……どうしたものか」
先生三人が揃いも揃って頭を悩ましてしまう。そこまでされると逆に心配になってきた。
「ねえヨヅキ……私撃ったよね?」
「えぇ、確かに何かを撃ったのは感じました。その後向こうの方でカトレア様の魔力が急に消えたので当たってるとは思います」
さも当然のように断言されるが、それが余計に私を不安にさせる。何せヨヅキは私のことに関しては全肯定の気がある。正直先生方が認識できなければ意味はない。
「……カトレアさん、ちなみに威力はどれくらいですか?」
「当たったら消えるくらいです。今までと密度は上げていません」
「ということは物理的なものは落とせませんね。一度密度を上げて撃ってもらいますか?」
「いや、速さが分からんのでは……カラン、見えそうな人に心当たりは?」
「マーリンおじい様とお父様、王国騎士団の魔導士部隊の副団長以上、後は……学園長か副学園長なら、多分」
「分かった。学園長達に声を掛けてみよう」
……なんかすごい壮大な話になってないか?
グラジオラ先生は腰から何かの魔導具を取り出すと魔力を通す。術式の種類的に……通信具かな?
「……お疲れ様です、グラジオラです。お忙しいところ申し訳ありません、少々問題が……いえ、カトレアではなく私たちに……えぇ、実は――」
通信具越しに誰かとしばらく話し、何か指示を受けたらしくまたすぐに別のところに連絡をし始める。
「あぁ、それで頼む。ある程度大きければ切れ端でも何でもいい。すまないが急いで持ってきてくれ。それでは……とりあえずもう一枚魔鉄鋼を持ってきてもらうことになりました」
「学園長らは何と?」
「副学長は今出ているらしく、戻るのは早くても夕方になると。学園長は捕まらないそうです」
「あー……書類多いからね、この時期」
それでいいのか学園長。
だが先生各位の反応を見るによくあることらしく、エニシダ先生が席を立つ。
「そうしたら魔鉄鋼が届くまでは待機ですね。既に終わった生徒たちも暇でしょうし、『魔弾の
「そうですね。制限は……まあいらないでしょう。ルールはどうしますか? 交代制で?」
「確保式で後は……魔法防御なし、身体強化なし、サイズは掌台まで辺りでしょうか」
「分かりました。ではそれで通達しましょう。すみませんが、お二人はまだこちらで待機していてください」
それだけ言うとエニシダ先生はグラジオラ先生と共に生徒たちの元へ行ってしまった。ちなみにカランコエ先生は当たり前のように私の横でお茶を飲んでいた。
(……本でも読むか)
何冊か本を取り出して、姉様やヨヅキも読めるようにテーブルの上に置いておく。
フライシュッツのどこかから恨めしい視線があった気がしたが、とりあえず今は無視しておくことにした。
「ォっ、お待たせ、しま、した……」
魔鉄鋼が届いたのは、思ったよりも早く届いた。
というか今にも上級生らしき男子生徒が吐きそうなのだが大丈夫だろうか?
「ありがとう、助かった。もう戻っていい」
あまりに事務的なやり取りに、男子生徒の既に青い顔が一周回って白くなる。
とりあえず冷めた紅茶があったので、一杯だけ渡すと勢いよく飲み干し、その後また学舎の方へ走っていった。……大変だな、使いっ走りも。
「準備できましたーっ!」
魔鉄鋼を壁に埋め込み終えたカランコエ先生がこちらに大きく手振る。
それを合図に魔力を先程より濃い目に調整して指先に集める。これは魔鉄鋼の性質上あまり薄い魔力では拡散した魔力で魔鉄鋼全体の色が変わってしまうのを防ぐための措置だ。
「――行きます」
一応合図をして、魔弾を撃ち出す。
魔弾は予定通り穴を通り抜け、後ろの魔鉄鋼に当たり、それを示すように三段階の甲高い音が――
「――ヨヅキッ!!」
私が合図するのと同時にヨヅキが駆け出し、それを視たグラジオラ先生もカランコエ先生に向けて飛び出す。
――だが、ヨヅキたちが到着するよりも早くカランコエ先生が組み上げた壁が、大きな音を立てて爆散した。
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