4-2 一等学級《クオリティ:ジェム》
目を覚ますとそこは、知ってる天蓋だった――
「――……ゆめ?」
久し振りに起こされる前に起きたが、寝惚け眼をいくら擦っても周りにあるのは私の自室だった。当たり前にモーニングティーは準備されているしヨヅキもいつものように私の服を準備していた。
夢だとしたらどこから? マーリンの眼がこちらを見ていた辺り? それとも実はまだ準備期間とか?
「夢ではありませんよ。カトレア様は無事学園に到着し、寮に入寮されました」
「あ、ヨミコ。おはよう」
「おはようございます、カトレア様」
当たり前のようにヨミコがいる。ということは本当に自室で、そのヨミコが言うに私は学園の寮にいるらしい。どういうことだ?
そこまで考えてふとヨヅキがマーリンを追い回していたあの日を思い出す。
この部屋はただの扉に鍵を差し込んだらこの部屋に繋がっていた。つまりはそういうことだろう。
「カトレア様、モーニングティーの準備が出来ました」
いつものようにヨミコの入れてくれた紅茶は薫り高く無駄な雑味がない。すっと体が目覚めてお腹が鳴った。そういえば朝ご飯がない。
「今日から寮での生活となりますので、朝食はご用意しておりません。あぁ、それと私は明日からは顔を出しませんので」
「え?」
流れるように注がれた二杯を飲もうとして噎せかける。
ヨミコは当たり前に荒れたベッドを直しながら話を続けた。
「流石にお嬢様がすぐにこの部屋をお出になるのは少々問題がありますが、そこに私まで居てしまっては籠っていた頃と何も変わりませんからね。とはいえ、たまには顔を出しますし、カトレア様がいらっしゃらない間、この部屋も掃除させていただきますからその辺は御心配なく」
……つまり隠れてお菓子を食べたりサボったりしたら容赦しないということか。
ちょっと寂しくなるなと考えるのもつかの間、早くしないと朝ご飯を食べ損ねますよと立たされて、ヨミコの手でスルスルと制服を着せられていく。私に制服を着せるヨミコはどこか楽しそうだった。
それからビックリするくらい大きなカバンを私に差し出してくる。
「これは?」
「王都で人気の学生鞄です。少し大きいですが実際は魔術が付与されていてこれより多く入ります」
「……私が持つの?」
「えぇ、学生ですから」
新品のトランクバッグを持ってヨミコがにっこりと微笑んでいる。
ヨヅキに持ってもらうと思いそちらを見たが、ヨヅキもヨヅキで色違いの同じ鞄を持って諦めたように首を振っている。どうやら既にこの交渉は終わっているらしい。
諦めてヨミコから鞄を受け取る。色々入ると言っていたこの鞄は思った何倍も軽かった。
「――とってもお似合いですよ、カトレア様」
私に帽子を被せながら、ヨミコが囁く。ヨミコによって着せられた制服はまだ少し大きいが、それでもとても暖かった。
「行ってくるよ、ヨミコ」
「行ってらっしゃいませ、カトレア様。また逢う日を楽しみにしております」
そういって私たちを見送るヨミコは、最後まで頭を上げなかった。
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