3-7 王立魔術学園

  『指導室』。それは全寮制のこの学校において唯一他から隔離される部屋だ。

 この部屋に入る場合には《魔封じの首輪》を付けられ、本人の魔力はもちろん外部の魔力や精霊の力なども行使できなくなる。

 無論、生命活動に必要な分は保障され、それでも自らの生命エネルギー、所謂を削ればそれらを行なうことも可能だが、対魔性に優れたこの部屋は魔力を吸収、放出する特殊な素材で囲まれ、室内の魔力も搔き乱すように設計されたこの部屋でそのようなことをしても意味はない。

 元は重犯罪者を捕らえるためにあのマーリン自らが提唱し造り上げたものだという――

「――だから、こっから先でそういうことしちゃ駄目だからね、二人とも」

 そう神妙に話すカランコエ姉様はとっても教師っぽい感じがして可愛らしい。

 あまりにも似合わなかったのでにへらとしていたらまた怒られてしまった。

「もうっ、ほんとに分かったのカトレアちゃん! これでもセンセー怒ってるんだから! それにとっても危険なんだよ? 私も三回くらい抜け出そうと頑張ったけど全然駄目で――」

「余計なことを言うな、全く……」

 いつの間にか入ってきたらしいグラジオラ姉様がカランコエ姉様の口を塞ぐ。それから少し諦めたようにこちらを見る。

「いいか? 私もカランもここに何度か入ったことがある。その度にぬけだしてやろうとそれぞれにと協力してと試してみたが点でダメだった。ちなみに父様もやったらしいが破れなかったと言っていた。分かったらお前たちも大人しくしていなさい」

 ……まさかのグラジオラ姉様どころか父様まで入っていらっしゃった。

 この感じだと家族全員、いや、一族全員入ったことがありそうだ。

「ちゃんと食事もあるし寝る場所もある――まあ、多少硬いが……――だからといってここから抜け出そうとするな。それとヨヅキ、ピッキングや《鍵》、後は力尽くで抜け出そうとしても無駄だ。そういった類の魔道具や能力、純粋な力なども無力化される。分かったな?」

「分かりました」

 今当たり前みたいに言ったが嘘だ。一瞬耳が動いた。

「たとえカトレアが中で泣いていようが出ることはできない。無論緊急時は別だがそれらは私達教員が判断する。これもお前の罰だと思え」

「………………分かりました」

 ……これは効いたらしい。

 グラジオラ姉様もそれに気付いたようで神妙に頷いている。

 あぁ、それから――そう言ってグラジオラ姉様が私の方に近付いて――そのまま私の影に手を突っ込んだ。その手には開き直ったような顔のノアールが抓まれていた。

「これは没収する。名前は?」

「ぇ、あ、の、ノアールです、グラジオラ姉様」

 急に話しかけられてついどもってしまった。

 私の態度に腹を立てたのだろうか、少し目を見開き何かを考えると、グラジオラ姉様は咳払いをして

「……私たちのことは以後姉様ではなく先生と呼ぶように」

 とだけ言うとノアールをどこからか取り出したペットキャリーに仕舞ってカランコエ姉様に渡す。だがその手は離れず、何かを考えるようにカランコエ姉様を見つめると、グラジオラ姉様がポツリと呟いた。

「……家族だけのときは、昔のように『グラ』でいい。分かったな」

「――え?」

 姉様の思いがけない一言に声が出る。肩が震えて見えたのは気のせいだろうか。

 だがすぐにカランコエ姉様が「グーちゃんズルい! 私もカランがいい!! カーちゃん私もカランって呼んでよ!!」とペットキャリーを振り回して騒ぎ始める。あぁノアールそんなに私を睨まないで……。

 そんな『カラン姉さま』に『グラ姉さま』が「ええい煩いぞカーラ!」と声を荒げ、私たちを部屋に押し込む。

「扉を閉めるぞ! 次に会うのは三日後だ、いいな!」

 そう言って勢いよく扉が閉められた。

 扉の外ではカラン姉さまとグラ姉さまが「待ってグーちゃん一日増えてない!?」「うるさい! カーラはもう少しお淑やかにしろと言ってるだろう!」「ひどい! そんなこと言うならもう可愛いお人形買ってこないんだから!」と言い争う声が響いてくる。そんなやり取りも懐かしくて、胸の奥が熱くなる。

(あぁ……私は本当に、外に出てきたんだ……)

 遅れてきた実感は、温かな涙と共に溢れ出ていた。

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