3-5 王立魔術学園
「何事ですか! ナイトレイド騎士公!!」
庭園内に女声が低く響き渡る。みれば教員らしき女性がヨヅキを睨みつけ、大股で近付いていく。
その声と姿にヨヅキがピクリと肩を震わせる。
「……グラジオラ様」
――グラジオラ?
懐かしい名前に思わず席を立つ。
だが、その女教師は私を一瞥することもなくヨヅキの方へ向かっていく。
流石のヨヅキもグラジオラに詰められてそのままでいるわけもなく、その場に整体し、膝を着く。自分の主が解放されたレサマの従者がすぐにその場に駆け寄った。
「……お久しぶりです、グラジオラ様」
「挨拶など不要です。私は今何をしているのかと聞いているのです」
明らかに女教師ではなく一人の騎士として詰め寄るグラジオラに頭を垂れたまま更に頭を下げ、首を曝す。
「は。我が主とこちらにてお茶を嗜んでおりましたところ、こちらの殿方が強く言い寄られ、我が領内に侵入しようとされましたので制圧しました」
――その姿はさながら、断罪を待つ罪人の様だった。
ヨヅキの言葉に女騎士はすっとこちらを一瞥し、腰に下げた剣に手を添える。
「ここは我ら王立魔術学園の領内です。一代騎士であるあなたの領地でもなければ。そこのカトレア公爵令嬢の庭園でもありません。そこは理解していますね?」
「はい。ですが、そちらの下男に依頼し、一時的にこちらをお借りしておりました。ご存じの通り療養のため永く屋敷におられました。現状入寮や入学の手続きを終える前に見ず知らずの男性とお茶をご一緒になられるのは負担になられるかと思い、そのように対応させていただいておりました」
「それは事実か?」
グラジオラの後ろ、息の切れた様子の先程の下男が肩を震わせる。
下男は懐から紙包みを取り出すとそれをグラジオラに見えるように掌に見せる。
「は、はい、事実です。私を一時的な代理人として正式に学園へ依頼されておりました」
そういって紙包みを解くと、そこには何枚かの金貨がそこにあった。
……いや、待て。一時的に借りるのに何故そんな枚数がいる。
「……借りるにしても随分と枚数が多いようですね」
「――……それは、その……我が主が何枚か草類を拝借するのは目に見えておりましたので、そちらも含んでおります……」
先程までハキハキと応えていたヨヅキが遂に言い淀む。
……なるほど、だから私が拝借しても目くじらを立てなかったわけか。
「そうか。つまり貴様は公爵家の一員としてこの庭園を狩りうけ、その上で男爵子たる彼を制圧したのだな?」
「そ、それはっ!」
「――何か?」
グラジオラの一言に狼狽したヨヅキが顔を上げるが、一蹴され、落ち込んだように頭を垂れると、はい、と唇を噛む。
「なるほど。つまりは家の問題か。……そこの、名前は何と言ったか」
「え、あっはい! し、シリアコと申します。レマス家よりアマンド様の傍付き兼護衛を仰せつかっております!」
急にグラジオラに名前を呼ばれ、シリアコと名乗った青年に対し、グラジオラが頭を下げる。
「此度は家のものが失礼をした。アマンド殿治療費については一切をこちらで負担させていただく。それから後程、家から公式に詫びの品を送らせていただこう」
「いえ、その……アマンド様にも非礼はありましたので……そういったことは望まれないかと……」
「……そうか。お心遣い感謝する。だが治療は必要だろう。そちらについてはすぐに用意をしよう」
そういうとグラジオラは傍の女子に二、三何か伝えるとすぐに指揮に戻る。
そしてあっという間に担架に運ばれレサマと共にその場を去っていく。
「……ヨヅキ。貴様らは後で指導室に来い。分かったな」
そうヨヅキに短く伝え、女騎士はその場を去っていく。
ただの一度も、私と目を合わせることはありはしなかった。
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