3章 王立魔術学院

3-1 王立魔術学院

 マーリンの強襲から半年。私は朝靄晴れぬ窓を眺めながら馬車に揺られていた。

「ヨヅキー……まだー……?」

「まだまだです。少なくともこの森を抜けて馬車を乗り換えますのでそれまでにすら一時間は掛かりますから。それに、まだ屋敷を出てからさほど経っていませんよ」

 この半年で私の喉はすっかり昔を取り戻し、今ではヨヅキに駄々をこねるのもお手の物だ。

 おおよそ六年振り位に乗った馬車はとてもとても退屈で、いい加減飽き飽きしてしまった。……いや、昔からそうだったもしれない?

 一方ヨヅキはというと、何か手帳のようなものを読み込んでいる。確か学生手帳とかいうやつで、校則とかそういうものが書き連ねてあるらしい。

 ここ半年やれ社交界のルールだのやれ学園の重要人物だのを叩きこまれていた私からすれば、これ以上魔術以外のものなんてを学習するつもりは更々ない。

 もっと言えば始めは行くつもりだった学園も正直今は面倒臭さ半分胡散臭さ半分といった感じであまり行きたくない。

 が、父様やヨミコに言ってしまった手前、どうあがいても行くしかないのだ。

「最近ヨヅキ冷たいね~。お前もそう思うだろー猫助~」

 ヨヅキが構ってくれなくて暇なので寝てる黒猫を伸ばして愚痴を零す。それに賛同するように黒猫はナァと小さく鳴いてまた膝の上で丸くなった

 それをみたヨヅキがパタン、と手帳を閉じてこちらを睨む。

「……猫はバッグに、そう言いましたよね?」

「そんなことしたらかわいそーだし、何よりコイツ父様から貰った僕の使い魔だし? ほら、使いってところじゃヨヅキと同等でしょ?」

「そんなぽっと出の新参者と一緒にしないでください」

「何、ヨヅキも私の膝で寝たかった?」

「……はぁ」

「なんだよ~」

 また手帳を開いて読み進めるヨヅキを揶揄からかいながら猫を弄ぶ。気付いたら尻尾が二股になっていたこの猫はいつも私の玩具係だ。大体のことは何をしても怒らないし逃げ出さない。

「そうだ。ヨヅキ、ご飯食べたい」

「……あり合わせでいいならいいですけど」

「うん。いいよ」

「分かりました。少々お待ちください」

 そういって手帳を器用に左手で手帳を開きながらバスケットに右手を入れ、しばらくゴソゴソ中身を漁り出す。しばらくすると切込みの入った細長のパンを取り出し、その後レタスやトマト、チーズなどを間に挟み込み、黒コショウを軽く振りかける。

 片時も手帳から手を離さないということは余程それにご執心らしい。

「それそんなに面白いの?」

「もう覚えてはいますが……単純に間違いがないかと思いまして」

「なるほど」

 ヨヅキの作ってくれたサンドイッチを齧りながらヨヅキを眺める。

「――ヨヅキさ」

「……何でしょう」

「もしかして、妬いてる?」

「……何にですか」

「猫に」

「…………カトレアのバカ」

 そういって読書に戻る私の子猫は、どうしようもなく可愛かった。

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