第3話 ドアの向こう
サークルで使ってる部屋のドアは押し戸になっている。ドアを開けたら、壁側には人1人が入れるくらいのスペースもある。
「今日は、ここに立ってるだけのドッキリを仕掛けたいと思います」
サークル室内設置カメラに一言言って、ドアの後ろにステンバーイ。ちなみに協力者は兄であるまくりである。
『誰か来そう?』
ラインで送るとすぐ返事がきた。
『扇が後5分ほどでそちらに向かう』
『了解』
スマホはサイレント状態。息を殺し、気配を消す。私は壁、私は空気、私は酸素……
ガチャリ。サークル室内のドアが開く。私は笑顔で立ち尽くす。
「今日のオカズは何だろなー。角煮にコロッケ、ハンバーグ♪」
部屋はカーテンで締め切って電気も消している状態だったので、人がいるとは思うまい。自作の鼻歌を小声で歌う大男は誰も居ないと思っている様子だ。正直、この鼻歌だけでも笑えるんだが。
(何歌ってんの)
パチっと電気のスイッチを入れてドアがパタンと閉まる。
「今夜のオカズはまだまだよー。素人、ベテラン、無修正」
彼はまだ気づいておらず、カバンをテーブルに置いた。が、そんな歌につい吹き出してしまった。
「ブハッ」
「っ!」
いつもの彼の反応、驚くというより声に反応して振り返って確認してきた。
「……何してんだ?」
とりあえず、携帯を出してプラカードを見せる。
「ドッキリ大成功!」
「……後ろからワッ!的なやつか」
「みたいなものだけど、それより面白い画がとれたから大満足」
あとでもう一回見よーっと。とか思ってると、扇はさっき自分が何をしていたかを思い出しながら、そして思い出した後に私の肩に手をやってきた。
「……聞いたのか?」
「ばっちし」
サムアップして満面の笑みで返してやる。
「……というか、これって事は、動画撮ってるんだよな?」
「ばっちし」
もう片方の手もサムアップ。扇は何か言いたげな顔で、そして悲しそうな顔をしながら目で訴えてくる。
「ここ、カットしてくれないか?」
「だが断る」
ありのままを撮るのがドッキリの醍醐味であり、面白さなのだ。そう易々とカットしてなるものか。ちなみに、部屋のカメラは来た人が録画ボタンを押して、出て行く時に録画停止ボタンを押すルールになっている。だから誰もいない部屋に油断していたのは仕方ないとも言える。ため息をつきながら、カバンをもち、扇は部屋から出て行く。後ほど公開処刑の歌が披露されるのだ、ダメージは相当なものだろう。
「強く生きろよ」
哀愁の目で見送った後、電気を消して再びステンバーイ。確か今日は会長と真美ちゃんも来るのだ。反応が楽しみだ。と、スマホが反応しているのを確認する。
『直生ちゃん、もうすぐ行く予定』
『ラジャ』
息を殺して待つ。そして待つこと5分ほどしてゆっくりと部屋の扉が開かれた。
「あれ、まだ誰もまだ来てないの?」
そういいながら電気をつけ、扉を閉める直生。そのすぐ後ろには、息をひそめた女がものすごい笑顔立っていた。
「え?」
何か、扉の後ろにあることに気づいたのか、肩を一瞬震わせて振り返った直生がうちの姿を確認する。
「うゎっ、きゃあぁ!!」
確認して1秒もたたないうちに声を上げて腰を抜かす彼女に、これぞ王道の反応!とばかりに心の中では拍手喝采。反応を見てすぐにスマホ画面の赤いプラカードに書かれた『テッテレー』を見せてネタ晴らしをする。
「な、な、なんやってんですか!うちちゃん!」
彼女は私のことをうっちゃんとは呼ばずにちゃんと『うち』ちゃんと呼んでくる。どうでもいいけど、こう呼んでくる人は珍しい。驚いて噛んでる割りにはちゃんと名前を呼んでくれるところに好感が持てる。
「ドッキリ大成功!ただ立ってるだけドッキリでしたー!」
「もー、びっくりするじゃないですか!」
「相変わらず直生ちゃんは反応がカワイィなぁ。お姉さん、惚れちゃうよー」
「もー、いたた……」
お尻を押えながら立ち上がろうとする直生に手を貸す。立ち上がるとお尻をはたきながら頬を膨らませる。
「ドッキリはいいけど、怪我させるようなことはダメなんですからね!」
「でも立ってただけだよ?」
「それは……そうですね……」
そう、ただ単に立ってるだけのドッキリなんだよね、これ。そういうと、言い返せないとばかりに口ごもる直生。そしてそのまま荷物をもって出て行ってしまった。怒ってはないようだが、うん、まぁ、後でまた謝っておくこととする。
部屋の電気を消して、同じ位置へとりあえずスタンバイし、連絡を待つ。そうして数分後、サイレント状態のスマホがペカペカと画面を光らせる。まくりからの電話だ。次はどっちだろう、まみちゃんかな?でもさっきまでラインでの連絡だったのに電話って、何かあったんだろうか?
『うち、火事だ!隣の部屋から黒煙が出てる!危ないから早く逃げろ!』
「えっ!?嘘っ!?」
窓の方を見たがカーテンを閉めていて確認できない。だが、隣で燃えていると聞いてうかうかしていられない。電気をつけて急いで荷物を机からひったくると、サークル室の扉を勢いよくあける。そして―――
―――目の前には小さな、色白で黒い長い髪の、白いワンピースを着た女の子が、白い裸足を紅く染めて、血だまりの上に立っていた。
「うっ、きやあぁ!」
普段あげないような変な声が出て尻もちをつく。焦りと驚きで目を白黒させていると、その女の子がスマホ画面を見せてくる。画面に映るそれには黄色いプラカードで『てってれー』と書かれていた。
「……どっきり、だいせいこーう」
棒読みで女の子がいう。そう言われて、その女の子がこのサークル内最小の娘ということに気づいた。
「真美……ちゃん?」
「……いえーい」
棒読みで言っている。楽しそう、ではなさそう。少し恥ずかしそうにしている感じがする。そう思っていると、横から兄貴と会長が現れた。
「いやぁ、ご苦労様ですね。真美もお疲れ様。かわいらしいですよ」
「……」
そう言われて会長に背を向けてうつむいている。恥ずかしがっているな?かわいいぞ。
「実はこの企画、うちを騙すために行っていたドッキリだったのだ」
「な、なんだってー」
と、返してみたが、多分最後の部分だけだろう。あの二人は普通にドッキリ引っかかってたし。
ネタ晴らしも終え、後片付けをする。床が着色されたため、血糊を拭くのが意外とめんどくさかった。
「ねえ、兄貴?」
「ん?」
「正直、あれ、あの格好で室内真っ暗で座ってるだけでもびっくりするよね?」
「あー、うん。そうだね、確かに怖ぇわ」
その後、二人は自宅で次回のドッキリ起用を検討した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます