第3話 4月10日

たまに僕の家でするときは、彼女は決まってビールを2缶持ってくる。僕がビールを嫌いなのを知っていながら、それでも無理して飲むのを知っているから、彼女は必ず僕の分までビールを持ってくる。

「冷蔵庫何もないじゃん」

そう言いながらも彼女は何か一品あてを用意する。そして僕が我慢してビールを流し込んでいるのを肴に、にやにやしながらビールを飲む。

今日の肴は魚肉ソーセージで、いつものように彼女は楽しそうに僕を眺めながらビールを飲んでいた。

「そういえばさ、100の男の意味わかった?」

嫌いなビールもあと一口か二口というときに彼女は口を開いた。思わず缶を傾けていた手も止まる。いつか来ると思っていたが、今かあ。

「……いえ、全然」

嘘だ。いくつか思いついたが、彼女に聞くのは気が引けるものばかりだった。

「なんだよ、つまんないなあ」

つまらないのはこの状況かそれとも僕自身のことか、確認するのは少し怖い。だから思わず、言うつもりもないことを言ってしまう。

「ぼ、僕の価値は100円くらい、とかですか?」

きょとん、としばらく彼女は僕を見つめる。しばらくの沈黙の後、初めて会った時のように笑いだした。ひいひいと息ができなくなりながらも彼女は続ける。

「そ、そんな、そんなに、自分を卑下しなくても……」

「じゃあ魅力が100個――」

「それは過大評価しすぎ」

手厳しい。


「これじゃあ、あなたとはまだ付き合えないねえ」

ひとしきり笑った後に、そう言う彼女は愉快そうで、不思議と僕も安堵しているみたいだった。100の男の意味は分からないが、この関係がこのまま続くのならそれもいいのかもしれない。

ふとカレンダーに目を向ける。そういえば、今日は2019年になって100日目の日だったと、どうでもいいことを考えながら僕は残りのビールを飲みほすのであった。

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100の男 じゅげむ @ju-game

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