第2話 一+白=

「たしかになあ。おまえは100の男だな」

 カズシロは生協のカレー弁当のふたを開けながら、さもありなんと頷いてみせる。そしてご飯をスプーンですくって、ルーに浸して口まで持っていく。

「どういう意味だよ」

 僕もカズシロと同じカレー弁当のふたを開けて、ルーをご飯にかける作業に取り掛かる。別にお揃いだとかそういうのではない。品ぞろえの悪い生協のせいでカレー弁当しかないのだ。

「意味とかじゃないんだよなあ。とにかくおまえは100って感じなんだよなあ」

 50とか99ではなく、とカズシロはカレーを口に運ぶ。カズシロの白飯はもう三分の一ほど減っている。僕の方はというと、ようやく大方のルーをかけ終えて容器の溝にのこった不届き者をこそいでいる最中だった。

「おまえなあ」

 と一心不乱にカレーをかきこんでいたカズシロは手を止めて、僕をスプーンで指す。

「その食い方はカレーに失礼ではないのか?」

 突然の指摘に僕は眉をひそめる。こいつは何を言っているんだ?

 黙っている僕に対して意気揚々とカズシロは続ける。

「白飯とルーには黄金比があるんだぜ。一口一口を最高の状態で食べてこそカレー弁当を作ったおばちゃんへの感謝を示せるんじゃあないのか?」

 たとえルーが残ったとしても、とカズシロはスプーンですくったご飯を恭しくルーに浸し、口に運ぶ。

「何を言う。結局ルーが余ってしまうお前の食べ方の方が失礼じゃないか。余ったルーは残すんだろ」

「アホか、最後は残ったルーもいただくわ」

 そう言うと、カズシロは残りのご飯をルーに浸して口に入れ、容器を傾けてルーを飲みほした。とにかく、スプーン一杯の白飯に対してベストなバランスのルーを一緒に食べるべきなんだよ、とカズシロはルーを口の端につけて熱く語る。

 違うね、とカズシロにつられて僕の口調も熱くなる。

「カレーライスである以上、カレーとライスは一緒でなくてはならない。たとえバランスが悪くなろうとも彼らを引き裂くことは出来ないのだ!」

 その勢いのまま僕は一気にカレーをかきこむが、気管に入ってむせてしまう。

「……おまえなあ。そういうとこだぞ」

 カズシロが呆れたように呟くが、むせている僕の耳には届かない。

 そういえば、カズシロの漢字を組み合わせると「百」じゃあないかと、しょうもないことを考えながら僕はカレーを水で流し込むのであった。

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