100の男
じゅげむ
第1話 AM「1:00」
「あなたはさ、100の男だからいいのよね」
ことが終わってまったりとした時間に、タバコを吸いながら彼女は呟いた。
「はぇ?」
いつものように黙ってタバコを一本だけ吸ったら、彼女は帰ってしまうのだと思っていた僕は予想外の一言に変な声を出してしまう。100の男?いきなり何の話なんだろう。
「……それは僕が100番目の男って意味ですか?」
沈黙が怖いので、真っ先に思いつくけどそうであってほしくない予想を彼女にぶつけてみる。ふふ、と彼女は馬鹿にするように笑って、
「さすがの私でもそこまではないわよ」
とこちらを振り返らずに言う。良かったと顔に出さないように安堵する僕を見透かしたのか、彼女は少しだけ間を空けて続ける。
「そもそも、何人目かいちいち数えてないもの」
今度は僕の目を覗き込むようにして、彼女は大層楽しそうに笑う。
……しまった。今のは多分顔に出ていた。僕が悲しそうにすればするほど、彼女にとっては愉快なようだ。
「意地悪しないで教えてくださいよ。100の男ってどういうことですか?」
「ええ~、簡単にわかったらおもしろくないじゃない?」
彼女はおもいっきりタバコをふかす。そして新しい悪戯を思いついたいじめっ子のように、心底意地悪そうに目がキラリと光る。
「そうねえ、100の男の意味が分かったらちゃんと付き合ってあげてもいいよ」
じゃあ私帰るから、と彼女は吸いかけのタバコを消すとテキパキと着替えを済ませ、3000円だけ置いて立ち去った。どんなに短時間でも、一泊したとしても、彼女は3000円と僕らの中では暗黙のルールとなっていた。
僕と彼女は世間一般でいう彼氏彼女の仲ではなく、セフレという言葉が僕らの仲を言い表すのにちょうどいいようだ。セックスするだけのフレンド。付き合ってもいなければ、将来を真剣に考えている訳ではない。
僕と彼女が出会ったのは去年の冬で、その時僕は大学2回生で彼女は20代もいよいよ終盤といったところだった。寒空の下、酒に呑まれた僕が小さな商店街で一晩過ごそうとしているところに仕事終わりの彼女が出くわした。大丈夫?と聞く彼女に、お酒の勢いで僕が童貞であることを告白したところ、彼女は息ができなくなるくらい爆笑して、じゃあ私が相手してあげると一夜を共にして、そしてそのままズルズルズルズルと……
初めの頃に勘違いした僕が彼女に尋ねると、
「私たちそんな仲じゃないじゃない?」
とやんわりと諭されてしまってから怖くて聞けていないが、たぶん僕たちは付き合ってはいない。それでももしかしたら、と情けなくてみっともない男の性根に対して、僕は見て見ぬふりを繰り返してきた。
ふと、時計を見ると時計の針は深夜一時を指そうとしていた。深夜一時も見ようによっては100が入ってるよなと、くだらないことを考えながら僕は帰り支度を進めるのであった。
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