インタビュー【かませ犬と呼ばれた男の娘は何を語る】

 我々の取材に応じた前田アスカはこう語った。

「青少年は商材でしかないのですね」

 そこでは記事では書けないような辛辣な言葉を筆者は聞いた。無理もない。自分のジムの若い選手が、父親と同じ境遇に晒されているのだから。

 日本の格闘技界は夥しい量の「生贄」をリングに捧げることで発展してきた。だけど、格闘技が発展すれば「生贄」が無くてもその人気を保つことが出来る。そう信じていた。

 だが、先進的と言われるペルセウスですら「生贄」を欲した。

 バラエティー番組では唐澤の相手を「期待の新鋭」「強敵」などと持ち上げて対等な戦いであることを強調しているが、私はハッキリとここに宣言する。対戦相手の愛朽竜也の実力は唐澤に大きく劣る。

 たしかに愛朽竜也は若者らしからぬ老獪な戦法と独創的な攻撃を持つ期待の新鋭だ。だが、彼には足りないものがある。経験である。彼はまだ総合格闘技を学んで日が浅い。幼少の頃から人を殴ってきた唐澤とはその蓄積された経験に雲泥の差があるのだ。

 この試合はどちらが勝かという性格のものではない。愛朽竜也が「どう散るか」という極めて後ろ向きな対決で、関係者から見ればそれほどバカげた試合である。

 私がここまで厳しいことを書くのは前田アスカにそうしろと頼まれたからだ。

 格闘技界は「当事者の男気」に甘えてきた。たまには「当事者の周りの声」にも耳を傾け、その体質が自浄されることを一人の格闘技ファンとして切に願う。


 「月刊スキル」記者 高嶋勉

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