インターバル 神床大我

 神床大我は今年二八になる。その格闘家としての半生は波乱万丈だった。柔道家から総合格闘家に転身したのは一九歳。それから幾つの敗北を重ねただろう。

 一〇年以上も柔の道に人生を捧げてきた俺ならやれる。

 その考えが甘かった。

 柔道では禁止とされているタックルに何度もこかされ、タックルを警戒すれば顔面にパンチを貰い、神床大我は黒星を重ねた。神床の心は何度も折れかかった。

 だが、折れなかった。

「諦めていいのは死人だけだ。生きている内は諦めるな」

 柔道時代の彼の師が授けた言葉が彼を敗北に打たれ強くする。

 二五歳の時、神床大我は覚醒の時を迎えた。

 相手はアルゴンの六位ランカーだった。この時神床大我のランクは十位。

 毎晩ジムで鍛え巌のように発達した背中。そこから放たれる砲弾のような右ストレートが相手の顎を打ち抜いた。相手の顎の骨が砕ける感触があった。柔道で鍛え抜かれた足腰。そこにボクシングの技術が融合し、いつしかそれは一撃必殺の破壊力を持っていたのだ。

 その日、顎が割れてタンカで運ばれる相手を見て神床大我は思った。

 ――俺は強い

 自信と言う名のドーピングだった。

 凛々しくいからせた眉毛。マルタのような太い足。鷹が羽ばたくような広背筋。その佇まいは一つの完成形だった。一人の柔道家は強打と寝技を兼ね備えた格闘家へと変貌した。

 神床大我はその剛腕でアルゴンの上位ランカーを次から次へと沈めていった。この二年間のKO率は一〇割。日本の最メジャー団体、ペルセウスへの参戦が待たれていた。

 そんな時、唐澤一徹という料理が彼の前に運ばれてきた。

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