インターバル 田口勝也の半生

 田口勝也に父はいない。どこかにいるのだろうが、田口が顔を見る前に消えた。どこの誰かも分からない若い女とともに。

 田口の母は女で一つで田口を育てた。毎日夜遅くまで働き、老いと疲労に身体を弱らせながらもなんとか田口を高校に入れた。田口も身体の弱い母を助けんと、中学の頃からバイトをするようになった。当然友達と遊ぶ時間もなく、勉強も殆どできなかった。卒業後はすぐに就職し、その初任給で母親を外食に連れて行った。母とする初めての外食。母親は喜んで田口の前で泣いたのを思い出す。

 就職したことで、田口に金の余裕が出来た。田口が趣味に選んだのが、ずっとあこがれていた総合格闘技だ。驚いたことにこれが向いていた。田口は他の人間よりも物覚えが早く、たった一年でアマチュアの大会で優勝する。

 ペルセウスという金網総合格闘技団体。その下部組織の『アルゴン』から声がかかったのが一年前。そこで二連勝し、田口は華々しい格闘技人生を最高の形で始める事が出来た。

 三戦目の今日。場所は有明の体育館。そこで三戦目を迎える。

 今日は、少し調子に乗って母親を客席に呼んだ。

 貴方が育ててくれた身体はこんなに丈夫になった。それを戦いで表現したい。


「今日はいい日になりそうだ」

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