23.誰そ彼

 あなたの顔にそっと触れる。

 あなたはだあれ。

 何者でもないのよ。と彼女は笑った。そうすると触れた手に柔らかな吐息が少しかかる。くすぐったくて照れくさくて私も笑う。


 あなたはだあれ。

 いつでも、彼女の答えは一緒。

 何者でもないと答え、手を離してしまえば彼女はいつも、夜の闇に、木漏れ日に、風の流れに溶けていなくなってしまう。

 私はそれが切なくて……。


 触れている時だけはそこにいてくれた。

 触れている時だけはそこにいてくれる。

 あなたはだあれ。

 今日も同じやり取りを繰り返す。

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