22.翼あるヒト
翼があるヒトがいる。稀なことである。
誰もそのことを口にしたりしない。聞いたこともない。でも僕は見たことがあった。
彼女から生える透明な翼は、顔を見せたばかりの朝陽と、うっすらと白い月に透けて見える。そしてたまさか気まぐれに現れる虹に。
彼女はそのことを知っているのかどうか、わからない。僕はこのことを口外したことがない。彼女にも、他の誰にも。
ある夜、二人きりで海際まで行った。
波音は静かで、空にはぼうっと月が出ていた。遠くで激しい水音がする。滝があるのだろうか。
暗くて周りのことはよくわからなかったが、とにかく僕らは見たのだ。
夜の虹だった。
思いもよらぬ空からの贈り物に僕は――。
思わず彼女を見た。透明な翼は、その時だけは虹の色を映して七色に輝いていた。
僕の彼女には翼がある。
彼女はそれで飛んだり特別なことができる訳ではない。でもとても美しい翼があるのだ。
翼あるヒト。
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