16.月下陽上

 大胆さと鋭さと優雅さは並び立つ……艶やかさもだ。夜に咲くは月光に光る花の如く、昼に咲くは伸びやかなる新緑の如し。


 彼女は仁王立ちになっていた。ここから先一歩でも踏み出そうものなら、どうなるか知らぬぞと言外に語るのは鋭い眼差し。それでいてその眼には深い理性の光があるのだった。牽制になるには十分すぎるほどの理由があった。


「さあ、どうぞ。邪魔できると思うのなら。」


 彼女はしばしばこうして巨人を前にして立ち塞がっている。得物はただ一本の槍。さながら騎士のごとき姿である。夢物語のように途方もない、一見すると無謀な戦い。相手は風車でもなければ、老いた馬さえつれてもいない、孤独な戦いだ。


 頑なだった。立たねばならない理由があるから。槍とはつまり、信念のようなものだった。折れるまで構え続けなければならない。折れないように、流すことも出来る。けれど決して手放すわけにはいかないもの。

 しかしそれでいて優雅な佇まいはひとつの特徴なのかもしれない。


 昼の光の中にいる限り彼女は戦い続けている。伸びやかなる新緑のごとく、その勢いは緩まれど止まることはないのだ。


 月の光の元には安らぎが広がっている。それは彼女にとっても余人と違うことはない。

 槍を盃に、あるいは筆に、あるいは、とにかくこの一時は穏やかで最も人にとって好ましい時間であり、それに相応しいものであればなんでも。

 夜には花がほころぶ。笑顔とともに。艶やかで幸福なる花。


 月下陽上、彼女はひとりの人であり。

 併せ持つ。猛々しさも麗しさも。

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