16.月下陽上
大胆さと鋭さと優雅さは並び立つ……艶やかさもだ。夜に咲くは月光に光る花の如く、昼に咲くは伸びやかなる新緑の如し。
彼女は仁王立ちになっていた。ここから先一歩でも踏み出そうものなら、どうなるか知らぬぞと言外に語るのは鋭い眼差し。それでいてその眼には深い理性の光があるのだった。牽制になるには十分すぎるほどの理由があった。
「さあ、どうぞ。邪魔できると思うのなら。」
彼女はしばしばこうして巨人を前にして立ち塞がっている。得物はただ一本の槍。さながら騎士のごとき姿である。夢物語のように途方もない、一見すると無謀な戦い。相手は風車でもなければ、老いた馬さえつれてもいない、孤独な戦いだ。
頑なだった。立たねばならない理由があるから。槍とはつまり、信念のようなものだった。折れるまで構え続けなければならない。折れないように、流すことも出来る。けれど決して手放すわけにはいかないもの。
しかしそれでいて優雅な佇まいはひとつの特徴なのかもしれない。
昼の光の中にいる限り彼女は戦い続けている。伸びやかなる新緑のごとく、その勢いは緩まれど止まることはないのだ。
月の光の元には安らぎが広がっている。それは彼女にとっても余人と違うことはない。
槍を盃に、あるいは筆に、あるいは、とにかくこの一時は穏やかで最も人にとって好ましい時間であり、それに相応しいものであればなんでも。
夜には花がほころぶ。笑顔とともに。艶やかで幸福なる花。
月下陽上、彼女はひとりの人であり。
併せ持つ。猛々しさも麗しさも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます