13.お気に召すまま

 毒林檎だなんて言ってない、でもそうじゃあないとも言ってないよ。どっちかわからない方が楽しいことだってあるでしょう。

 双子はくすくす笑いながら言った。


「ねえここから出るには」

「ここから出るには」

 やまびこのように繰り返して双子が言う。どちら子供が言った言葉なのか、だんだんと分からなくなる。

「林檎を食べないと」

「どちらかの林檎だよ」

「片方は正解。」

「片方は。」

 片方はどうなんだという顔で見たら、最初の言葉ではぐらかされたのだ。

「楽しいでしょ」

「楽しいでしょ」

 楽しくない!

「楽しいよ?」

「楽しい。」

 彼らはからかうように言いながら、揃いの服を着て、塀にかけた足をぶらぶらさせながらただただそういうのだ。


 結局どちらが毒林檎なのかはわからなかった。双子のどちらがどちらかすらもうわからなかった。

 視界が暗転してなお。

 どうなったのだ。

 なんだというのだ。

 どうだったというのだ。

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