11.大地に立つ

 地の道を踏みしめて歩くものの強さを、浮き足立つものたちは知りはしないのだ。


「つらくないの?」

「つらいよ」

「よくやるねえ」

「別にやりたいわけじゃないよ」


 押し問答のような会話を繰り返している。

 浮き足立った者たちには想像力が欠けていることがままある。それを甘受しなければならない位置はどのくらい不平等で、損だろうか。

 支える側の労苦が報われることは極めて少ない。ただ向かい風に耐えて前に進むように、地に足をついて、身を低くして、じわりじわりと一歩一歩進んでいく。踏み外さないように、滑らないように、転ばないように。

 彼は誰だろう。

 大地に根付く潅木のようなと人は呼び。あるいは地面を押し上げる霜柱のようなとも呼んだ。呼び名は彼にはあまり関係ない。彼は、生きている。生きていることは歩み続けていること。


 しかし。家で出迎える猫たちのみにより、大地にたった霜柱のような彼の疲弊はようやく溶かし得るのだった。

 猫は遠慮なく一番いい席に陣取って、大きくあくびをしているのだった。

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